日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG09] 地球史解読:冥王代から現代まで

2018年5月22日(火) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源研究開発センター)

[BCG09-P09] カナダ,ガンフリント層に産する約19億年前の微生物化石及び共存鉱物における地球化学的研究

*笹木 晃平1石田 章純1掛川 武1 (1.東北大学大学院理学研究科)

キーワード:微化石、ガンフリント層

ガンフリント層はおよそ19億年前のチャートや砂岩,炭酸塩岩, 鉄鉱層などを含む堆積層であり,様々な形態の微生物化石(=微化石)が発見されたことによって先カンブリア代微化石研究の先駆けとなったことでも知られている[1]. 約24億年前に起こったとされる大酸化事変以降, 地球表層環境における酸素濃度が上昇し海洋の元素循環は一変した[2]. それに伴い生態系の主要生産者は嫌気代謝から好気代謝に移行したことが推察される. 約19億年前はそのような過渡期の最終段階にあたり, 好気的生物が主体となりながらも,嫌気的生物が局所的に存在していた可能性がある.約19億年前の堆積岩にはそれらに対応した当時の生物活動が記録されていることが期待される. ガンフリント層の微化石は現生のバクテリアとの形態的類似性から酸素発生型光合成細菌や鉄酸化細菌だと解釈されている. 近年は形態的差異に加え, その微化石の局所的炭素同位体組成分析や軽元素の分布から微生物の代謝, 生物種を推定する研究があるが[3,4],種を特定するまでには至っておらず, 海洋化学組成や酸化還元状態などの堆積場と生物の関係性も明らかにされていない.

本研究では微化石の形態観察及びその形態に応じた化学組成分析,および共存鉱物の分析を行った. また堆積環境の違いと微生物生態系の関係性について検証している. カナダ,オンタリオ州のSchreiber Beach, Mink Mountain, White Fish Riverの3地域で地質調査を行い,ストロマトライトを含む岩石を採取した. これらはガンフリント層の東西に500kmの範囲で離れて位置しており, 堆積環境が明らかに異なる地域である.ガンフリント層の東部に位置するSchreiber Beachから採取したストロマトライトは黒色チャート中に見られ, 直径30–100cm程度のドーム状の構造をしている. ストロマトライト中の微化石は炭素質の膜を有し, 保存は良い. 光学顕微鏡を用いた形態観察によってそれらは少なくとも6種に分類できた. その中でThick–walled Huroniospora, Thin–walled Huroniospora, cell–type Gunflintiaそしてsheath–type Gunflintia の4種が高頻度で観察できた. Thick–walled Huroniospora and cell–type Gunflintiaの2種類はより詳細な観察を行うために走査型電子顕微鏡およびエネルギー分散型X線分光装置を用いて分析を行った. その結果,この2種の微化石は細胞内部に微細な鉄鉱物を有していることが分かった. この特徴は細胞膜表面に鉄鉱物を沈着させるような現在まで考えられてきた鉄酸化細菌とは一致しない特徴であり, ガンフリント層における生態系に新たな解釈を与えることが期待される.

一方でガンフリント層の西側に位置するMink MountainとWhite Fish Riverのストロマトライトは富赤鉄鉱なジャスパー中に見られ, 細長く指状に伸びた形状をしている. ストロマトライトの構造間には赤鉄鉱化した魚卵石が高頻度で分布していた.ストロマトライト中の微化石は赤鉄鉱化しており,有機物はほとんど残されていない. 微化石はSchreiber Beach地域よりも少なく, HuroniosporaGunflintiaの2種類の形態が確認された.

以上のように, 同じ時代や堆積盆内であっても堆積環境が異なることで沈殿鉱物, 微生物のタイプ分けはもとより,ストロマトライトの形状やサイズが異なることが明らかになった. これらは微生物生態系や堆積環境の元素循環の違いを反映していると考えられる.



[1]Tyler and Barghoorn, 1954, Science, [2]Holland, 2006, Phil. Trans. R. Soc. B., [3]Wacey et al., 2013, PNAS., [4]Williford et al., 2013, Geochim. Cosmochim. Acta