[BCG09-P10] 約18億年前の硫黄同位体比変動とEuxinic環境の発達:
カナダ・Cape Smith帯Povngunituk層群Nuvilic層
キーワード:古原生代、硫黄同位体 (δ34S)、有機炭素同位体 (δ13Corg)、ユーキシニック海洋
海洋の酸化還元環境は約19-18億年前に大きく変化したと言われている(たとえば Anbar and Knoll 2002; Poulton et al., 2010).一般に約18億年前以後.世界中で縞状鉄鉱層が形成されなくなったことは,当時の海洋環境が鉄イオンに富む環境から硫化水素に富む環境へと変化したことに起因すると考えられている.また,この海洋環境変化は硫黄同位体比変動を伴ったことが示唆されている(Poulton et al., 2004).しかし,これらの海洋環境変化のタイミングやその要因についての全貌は未だ明らかとなっておらず,より多くの地質帯から当時の海洋環境に関する化学データを報告することが必要となっている.本研究において,我々はカナダ・Cape Smith帯Povngnituk層群 Nuvilic層より大きな硫黄同位体比変動(-5から+15‰)を発見した.本講演ではその岩相及び有機炭素・硫黄同位体比変動,そしてそれから考えられる海洋環境変化について報告する.
<コア試料岩相>
本研究で用いた試料は約50mの砂岩–黒色頁岩互層からなるコア718.3333である.これらの堆積物はスペリオルクラトンの北縁で堆積したものと考えられている.コアは砂岩優勢部から黒色頁岩優勢部へと変化する上方細粒化と上方粗粒化により3ユニット(下部,中部,上部)に分割される.下部ユニットは約10mであり,約1m超の砂岩層と灰黒色の頁岩が特徴的である.中部ユニットは約25m連続し,最大10cm程度の砂岩と黒色の頁岩層からなる.黒色頁岩優勢部には特徴的な5mm程度の硫化鉱物の薄層を含む.上部ユニット層は約15m連続し,30cm程度の砂岩層と灰黒色~黒色の頁岩層で構成される.コア全体を通じて砂岩は主に石英から構成され,その隙間を白雲母等が埋めている.黒色頁岩は石英,長石類,白雲母,粘土鉱物等を含む.また,磁硫鉄鉱や閃亜鉛鉱等の硫化鉱物も散在する.
<有機炭素及び硫黄同位体比変動>
有機炭素同位体比はコア全体を通しておよそ-33から-28‰の間で変動し,下部層砂岩優勢部で最大値を取る.その後,中部ユニット砂岩優勢部で最小値を取るまで急激に同位体比は軽くなり,中部ユニット黒色頁岩優勢部より上位では-32から-30‰の間で緩やかに変動する.
硫黄同位体比はコア全体を通しておよそ-5から+15‰の間で変動する.下部ユニットの砂岩優勢部で+13‰を取り,その後中部ユニット砂岩優勢部で-5‰の最小値まで急激に減少する.その後硫黄同位体比は緩やかに+15‰まで上昇し,上部,最上部層では約+10‰の値をとる.硫黄と有機炭素の含有量比(S/C)は平均で0.30であり,Nuvilic層が海洋堆積物であることを支持する.
<考察>
上記の岩層及び硫黄・有機炭素同位体比変動は当時の海洋環境変動に起因すると考えられる.黒色頁岩の色相変化は海洋の酸素濃度変化を示す.下部ユニットから中部ユニットにかけて頁岩の黒色が濃くなることから,有機物を分解する海洋中酸素濃度が減少したと推察できる.また,中部ユニットに特徴的な硫化物薄層は,海洋底表層付近での硫化物の無機的な沈殿により形成され,当時の硫化水素に富む海洋環境を表すと考えられる.有機炭素同位体比は現世のシアノバクテリアや紅色硫黄細菌,メタン生成菌等が固定する有機炭素の同位体比と一致し,それら3種の生物の活動を示唆する.比較的高い硫黄同位体比は貧硫酸イオン環境中での硫酸還元菌の活動を示唆しており,下部ユニットから中部ユニットへの硫黄同位体比の急降下は海洋の富硫酸イオン化によると考えられる.この時,硫酸還元菌の活動により発生した硫化水素が海洋に蓄積されることで,中部ユニットに特徴的な硫化物薄層を形成する硫化水素に富む海洋環境が形成された.本研究より,約18億年前に硫酸還元菌の活動によって発生した硫化水素が蓄積され,硫化水素に富む強還元環境が形成されたことが明らかとなった.
<コア試料岩相>
本研究で用いた試料は約50mの砂岩–黒色頁岩互層からなるコア718.3333である.これらの堆積物はスペリオルクラトンの北縁で堆積したものと考えられている.コアは砂岩優勢部から黒色頁岩優勢部へと変化する上方細粒化と上方粗粒化により3ユニット(下部,中部,上部)に分割される.下部ユニットは約10mであり,約1m超の砂岩層と灰黒色の頁岩が特徴的である.中部ユニットは約25m連続し,最大10cm程度の砂岩と黒色の頁岩層からなる.黒色頁岩優勢部には特徴的な5mm程度の硫化鉱物の薄層を含む.上部ユニット層は約15m連続し,30cm程度の砂岩層と灰黒色~黒色の頁岩層で構成される.コア全体を通じて砂岩は主に石英から構成され,その隙間を白雲母等が埋めている.黒色頁岩は石英,長石類,白雲母,粘土鉱物等を含む.また,磁硫鉄鉱や閃亜鉛鉱等の硫化鉱物も散在する.
<有機炭素及び硫黄同位体比変動>
有機炭素同位体比はコア全体を通しておよそ-33から-28‰の間で変動し,下部層砂岩優勢部で最大値を取る.その後,中部ユニット砂岩優勢部で最小値を取るまで急激に同位体比は軽くなり,中部ユニット黒色頁岩優勢部より上位では-32から-30‰の間で緩やかに変動する.
硫黄同位体比はコア全体を通しておよそ-5から+15‰の間で変動する.下部ユニットの砂岩優勢部で+13‰を取り,その後中部ユニット砂岩優勢部で-5‰の最小値まで急激に減少する.その後硫黄同位体比は緩やかに+15‰まで上昇し,上部,最上部層では約+10‰の値をとる.硫黄と有機炭素の含有量比(S/C)は平均で0.30であり,Nuvilic層が海洋堆積物であることを支持する.
<考察>
上記の岩層及び硫黄・有機炭素同位体比変動は当時の海洋環境変動に起因すると考えられる.黒色頁岩の色相変化は海洋の酸素濃度変化を示す.下部ユニットから中部ユニットにかけて頁岩の黒色が濃くなることから,有機物を分解する海洋中酸素濃度が減少したと推察できる.また,中部ユニットに特徴的な硫化物薄層は,海洋底表層付近での硫化物の無機的な沈殿により形成され,当時の硫化水素に富む海洋環境を表すと考えられる.有機炭素同位体比は現世のシアノバクテリアや紅色硫黄細菌,メタン生成菌等が固定する有機炭素の同位体比と一致し,それら3種の生物の活動を示唆する.比較的高い硫黄同位体比は貧硫酸イオン環境中での硫酸還元菌の活動を示唆しており,下部ユニットから中部ユニットへの硫黄同位体比の急降下は海洋の富硫酸イオン化によると考えられる.この時,硫酸還元菌の活動により発生した硫化水素が海洋に蓄積されることで,中部ユニットに特徴的な硫化物薄層を形成する硫化水素に富む海洋環境が形成された.本研究より,約18億年前に硫酸還元菌の活動によって発生した硫化水素が蓄積され,硫化水素に富む強還元環境が形成されたことが明らかとなった.