日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG10] 顕生代生物多様性の変遷:絶滅と多様化

2018年5月21日(月) 10:45 〜 12:15 102 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:磯崎 行雄(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、澤木 佑介(東京大学大学院総合文化研究科)、座長:澤木 佑介(東京大学)

11:05 〜 11:20

[BCG10-08] ヘリウム同位体を用いたP/T境界遠洋深海泥岩からの地球外物質検出の試み:大量絶滅の要因を探る

★招待講演

*高畑 直人1尾上 哲治2三浦 光隆3佐野 有司1磯崎 行雄4 (1.東京大学大気海洋研究所、2.熊本大学先端科学研究部、3.熊本大学自然科学研究科、4.東京大学大学院総合文化研究科)

キーワード:P/T境界、大量絶滅、地球外物質、ヘリウム同位体

中生代末の大量絶滅に巨大隕石衝突の関与が示唆されるのに対し、史上最大の絶滅がおきた古生代末(P/T境界)事件については巨大火山活動を想定する研究者が多い。その一方で、地球外要因の議論もあるが証拠不十分とされている。地球外物質を探す指標元素として白金族元素の他にヘリウムがあげられる。ヘリウムは宇宙に多く存在する元素であり、宇宙塵などの地球外物質には地球物質に比べてヘリウムが多く含まれている。ただし大気に突入する際の摩擦熱でヘリウムは大部分が逃げてしまうため、濃度で地球外物質を探すことは難しい。しかし同位体比(3He/4He比)を使えば、地球外物質と地球物質を見分けることができる。Becker et al. (2001) は日本と南中国のP/T境界層からフラーレンと地球外起源を示唆する3He異常を報告し、絶滅原因として隕石衝突の可能性を指摘したが、そのデータの再現例はこれまで皆無である。本研究では岐阜県舟伏山地域の美濃帯ジュラ紀付加体中に産するP/T境界遠洋深海泥岩から新たに試料を採取し、ヘリウムの同位体比(3He/4He比)を分析した。
酸処理した試料を真空下で段階加熱してヘリウムを抽出しその同位体比を分析したところ、P/T境界直前の地層から100 Ra(1Raは地球大気の3He/4He比)を超えるヘリウムを見つけ,初めて明瞭な地球外物質を検出した。さらに、地球外物質流入の期間および量を調べるために、等間隔で採取した未処理の試料のヘリウム同位体を分析した。その結果、地球外3Heの濃度はP/T境界の直下約1m(時間にすると約10万年)の区間で最も高く,その下位および上位層では低い傾向が判明した。堆積速度を仮定し、地球外3Heのフラックスを見積もったところ,P/T境界直前の約10万年間にはP/T境界後の静穏期に比べて10倍以上高かったことがわかった。フラックスの高い状態が長期間続いたことから,K/Pg境界に匹敵する量の地球外物質が流入した可能性がある。この結果はP/T境界での大量絶滅と地球外物質の大量流入との因果関係を暗示している。

Reference: Becker et al. (2001), Science, 291, 1530-1533.