日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT05] 化学合成生態系の進化をめぐって

2018年5月24日(木) 09:00 〜 10:30 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域自然システム学系)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)、延原 尊美(静岡大学教育学部理科教育講座地学教室)、座長:Robert Jenkins(金沢大学)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)、延原 尊美(静岡大学)

09:00 〜 09:15

[BPT05-01] 化学合成共生と光合成共生の比較から考える海洋における栄養共生の進化

★招待講演

*丸山 正1 (1.北里大学海洋生命科学部)

キーワード:共生、化学合成、光合成

本来従属栄養生物である動物の一部は、栄養共生という共生様式を獲得することで、その生息域を拡大し、大きな生態系の基盤形成にも重大な影響をあたえたことは、浅海域のサンゴ礁や多くの深海の熱水域や湧水域の生態系におけるこれらの共生系の発達がしめしている。これらの共生系がどのように進化してきたかは、それぞれの生物群(宿主動物や共生微生物)における共生という様式がどのように進化してきたのか、そしてそれが、それぞれの生物群の性質にどのように影響してきたのかを考える上で重要であるだけでなく、サンゴ礁や深海の共生生態系のような生態系がどのように形成されてきたのかを理解する上でも重要だと考えられる。しかし、それらの共生系の進化を俯瞰的に解析することは今までほとんど行われてきていないように思われる。そこで、ここでその問題を整理して今後の研究の方向を考えてみたい。

化学合成共生系を見ると、その主要な宿主動物は原生生物(繊毛虫)、カイメン動物、軟体動物(二枚貝類、巻貝類)、環形動物(多毛類および貧毛類)、節足動物(甲殻類)などで見られる。これに対し、光合成共生の主要な宿主動物は、原生生物(繊毛虫、有孔虫)、カイメン動物、刺胞動物、軟体動物(二枚貝類、後鰓類)、原索動物(皮嚢類)などで認められる。すぐに気づくことは、浅海の光合成共生系で重要であるサンゴなどの刺胞動物は深海にもみられるが化学合成共生は見られないことである。他方、ハオリムシのように、深海で重要な化学合成共生系のメンバーである環形動物はやはり浅海にも生息するにもかかわらず、光合成共生はほとんど見られない。

他方、共生者を見ると、化学合成共生系では共生者は全て原核生物でほとんどは細菌で、特にプロテオバクテリア、そのなかでもγプロテオバクテリアに属する、硫黄酸化細菌あるいはメタン酸化細菌(メタン酸化は化学合成では無いことに注意が必要)である。これに対し、光合成共生系の共生者は、その一部に、原核生物であるラン藻(シアノバクテリア)もしられているが、その多くが真核の藻類で海洋では特にSymbiodinium属に属する渦鞭毛藻が重要である。

   化学合成あるいは光合成は、無機炭素を化学的あるいは光と言う物理学的なエネルギーを用いて、固定し、有機物を合成することがその代謝で重要な点である。この代謝系は動物は有していないが、それを支えるために、動物が行っている呼吸という有機物の無機化により生じる無機炭素の処理過程の方向性が逆になるということが生じる。この過程は化学合成共生でも光合成共生でも類似の要求に対する適応を要求すると考えられる。また、ある生物群が深海及び浅海の両方に生息しているならば、温度、圧力、などの環境要因は、どちらの共生系であってもそこに生息する以上同様に働くと考えられる。しかし、化学合成共生は、還元物質の酸化エネルギーを用いることから、無酸素環境と有酸素環境の境界領域がその生息の場として要求されるのに対し、光合成共生は当然ながら光を要求することと、光合成の副産物として生じる酸素の処理が必要となる点が大きく異なる。したがって、これらの環境への適応能力が、これらの共生系の進化が生じるのに大きく影響したのではないかと推察される。

   本発表では、これらの共生系は、それぞれの動物群で独立に進化してきたと考えられるが、それにどのような要因が関与したか、また、その結果として、化学合成共生者の一部で示されたゲノム縮小などが、その結果とて生じていることなどを考察する。