日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT05] 化学合成生態系の進化をめぐって

2018年5月24日(木) 09:00 〜 10:30 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域自然システム学系)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)、延原 尊美(静岡大学教育学部理科教育講座地学教室)、座長:Robert Jenkins(金沢大学)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)、延原 尊美(静岡大学)

10:00 〜 10:15

[BPT05-05] 深海底科学掘削に伴う掘削屑がメイオファウナ群集に与えた影響–イメージング・フローサイトメーターを用いた結果との比較

★招待講演

*北橋 倫1杉目 幸恵1土屋 正史1渡部 裕美1山本 啓之1 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構)

キーワード:メイオファウナ、科学掘削、イメージング・フローサイトメーター、環境モニタリング

海底熱水鉱床など海底鉱物資源は近い将来、開発が進むと予想される。採掘・掘削活動は周辺の海底環境や底生生態系に影響を与える可能性があり、生態系への悪影響を最小化するためには、そのような掘削活動による影響を評価する必要がある。メイオファウナは一般に、目開き500–1000 μmの篩を通過し、32–63μmの篩に捉えられる底生生物と定義され、自然・人為的撹乱が深海生態系に与える影響を評価する際の指標として広く知られている。本研究では、中部沖縄トラフ野甫サイトで行われた地球深部探査船「ちきゅう」による科学掘削が周辺のメイオファウナ群集に与えた影響を解析した。

 沖縄トラフ野甫サイトでは2016年2月–3月に「ちきゅう」による掘削が行われた(ちきゅうCK16-01航海)。我々は掘削前後に同サイトで行われた深海調査研究船「かいれい」KR15-17航海(2015年11月)、及び KR16-15航海(2016年11月)において、無人探査機「かいこうMk-IV」を用いて堆積物サンプルを採集した。掘削前のKR15-17航海では、300 m、600 m間隔で3つのサイト(St. 1, St. 2, St. 3)を設定し、各サイト内において10 m間隔で3つの地点(合計9地点)で採泥を行った。掘削後のKR16-15航海では、St. 2付近の掘削孔脇の地点(St. 2-4)、及びSt. 1、St. 2の前年と同じ地点(St. 1-4, St. 2-5)で行った(合計3地点)。これらの堆積物サンプル(表層0–0.5, 0.5–1, 1–2, 2–3, 3–4, 4–5 cmの6層)について、メイオファウナを計数し、堆積物中でのメイオファウナの鉛直分布パターンと高次分類レベルでの群集組成を解析した。掘削後のSt. 2-4, St. 2-5については、掘削屑の堆積がメイオファウナの鉛直分布パターンに影響していると考えられたため、表層の6層に加え、より下層(15 cmまで1 cm間隔、合計10層)を含めて分布パターンを比較した。

 その結果、表層5 cmまでの鉛直分布パターンは、掘削前後に関わらず解析した全ての地点で、メイオファウナが表層に集中する一般的なパターンが見られた。一方、表層5 cm以下の鉛直分布パターンを比較すると、掘削屑地点のSt. 2-4では、掘削の影響のなかったSt. 2-5に比べて13–14 cm, 14–15 cmの層でメイオファウナの生息密度の上昇が見られた。また、掘削後のSt. 1-4とSt. 2-4の群集組成は、掘削前と異なっていた。これらの結果は、掘削による掘削屑の堆積により、周辺のメイオファウナが埋没し、堆積物表層の群集組成が変化したことを示唆している。
 発表では、顕微鏡下での拾い出しによる従来の解析方法の結果に加え、迅速にサンプルを処理できるイメージング・フローサイトメーターによる結果も示し、この新しい手法の有用性についても議論する。