日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT05] 化学合成生態系の進化をめぐって

2018年5月24日(木) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域自然システム学系)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)、延原 尊美(静岡大学教育学部理科教育講座地学教室)

[BPT05-P03] 「しんかい」湧水域(Shinkai Seep Field)及びコニカル海山産ホワイトチムニーと初島沖シロウリガイの非破壊的観察

*石井 輝秋1Fryer Patricia 2高橋 聡3松崎 琢也4太田 秀5 (1.静岡大学 防災総合センター、2.ハワイ大学、3.東京大学、4.高知大学、5.東京大学(元))

キーワード:ホワイトチムニー、「しんかい」湧水域、コニカル海山、シロウリガイ、初島沖、深海冷湧水域

近年有人潜水艇やROVによる調査研究により、シロウリガイ、シンカイコシオリエビ、各種巻貝、チューブワーム等からなる深海生物群集が、大洋中央海嶺や海溝陸側斜面域を中心に汎世界的分布が確認されつつある。これらの深海生物群集は地質学的立地条件から(A)熱水噴出孔生物群集(hydrothermal vent communities)と(B)冷水湧水域生物群集(cold seepage communities)とに大別でき、前者を熱水系、後者を冷水系と略称できる。

熱水噴出孔生物群集は、深海底での火成活動の場である(A-1)大洋中央海嶺の拡大軸(太平洋、大西洋、インド洋中央海嶺他)、(A-2)縁海の拡大軸(マリアナトラフ、沖縄トラフ、マヌス海盆、カリフォルニア湾他)等から多数の報告がある。更に、その他の広義の発散的プレート境界に加え、(A-3)島弧性海底火山に伴う生物群集(鹿児島湾、相模湾初島沖等)や(A-4)ホットスポット(未確認)も考えられる。

冷水湧水域生物群集は(B-1)海洋プレートの沈み込みの場である、活動的大陸縁辺部や島弧域の海溝陸側斜面上(オレゴン沖、日本海溝、南海トラフ他)、(B-2)非活動的大陸縁辺部の堆積物上(フロリダ沖、ニューファンドランド沖等)、更にその他に(B-3)化石有機物質の濃集帯(北海のノルウェー沖、日本海の表層型ガスハイドレート域他)等に分類出来る。グループ(A)の熱水噴出孔生物群集は地球の内部熱エネルギーに支えられていると考えられるが、グループ(B)の冷水湧水域生物群集は堆積物中に埋積された、太陽エネルギーによる光合成の産物である、化石有機物質由来のメタンガス等に支えられている可能性が高いので、太陽エネルギーに間接的に支えられているとみなす事が出来る。

最近蛇紋岩分布域に棲息する蛇紋岩湧水域生物群集が、大洋中央海嶺域と海溝陸側斜面域から報告されていて、ここではこれらをグループ(C)の生態系とする。即ち(C-1)中央海嶺オフリッジの蛇紋岩露出地域(大西洋中央海嶺のLost City 低熱水域)、(C-2)海溝陸側斜面の蛇紋岩海山山頂域(中部マリアナ前弧の南チャモロ海山等)、(C-3)海溝陸側斜面の蛇紋岩分布域(南部マリアナ海溝陸側斜面の「しんかい」湧水域=SSF:Shinkai Seep Field)である。グループ(C)生態系を支えるエネルギー源として、橄欖岩の蛇紋岩化反応で生じる水素の可能性が強く示唆されており、深海底のみならず初期地球の生命発生時や地球外惑星での、生命を支えるエネルギー源としての可能性を秘めているとして注目を浴びている。

上記「しんかい」湧水域SSF生物群集は「よこすか」YK10-12研究航海の「しんかい6500」第1234潜航調査(石井が乗船)の際に、南部マリアナ海溝陸側斜面の上部マントル橄欖岩分布域(水深約5600m)で発見され、シロウリガイが広範に分布する深海生物群集であることが確認され、シロウリガイとホワイトチムニー破片の転石が採取された。シロウリガイコロニー分布域がモホ面直下であることから、生態系を支える冷湧水とモホ面との関連が強く示唆されている。その後、「しんかい6500」の数次に渡る潜航調査で、林立するホワイトチムニーが採取されている。

グループ(A)、(B)、(C)の深海生物群集域にはチムニーを伴うものがあり、主に(A)はブラックチムニーを、(B)、(C)はホワイトチムニーを特色としている。

ここでは新たに発見された(C-3)「しんかい」湧水域(SSF)で採取された、硬質と軟質2種類のホワイトチムニー、及び(C-2)海溝陸側斜面の蛇紋岩海山山頂域(中部マリアナ前弧のコニカル海山)産のやや軟質ホワイトチムニーの内部構造を、CTスキャンとXRFマッピングによる非破壊的観察により、その特徴を明らかにしチムニーの成因解明を目指す。尚、コニカル海山産チムニーはPatricia Fryer を主席研究員とするR/V Atlantis-II研究航海で、潜水艇Alvin号によりコニカル海山山頂部から採取された試料である。

初島沖深海生物群集は1984年6月5日の「しんかい2000」第115潜航(江川公明乗船、田代・櫻井)で発見され、1985年6月19日の「しんかい2000」第177潜航(石井輝秋乗船、内田・櫻井)で調査され、メディア報道がなされ脚光を浴びるに致った。1986年以降太田秀、橋本惇、酒井均等を代表とする大学、JAMSTECの研究者により、「しんかい2000」、曳航式ソナーやTVシステム、更にROV等による調査、試料採取が集中的に行われ、日本の深海生物群集研究の基礎となっている。ここでは、シロウリガイの鰓部のEPMA分析を再報告する。