日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC28] 雪氷学

2018年5月23日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:縫村 崇行(千葉科学大学)、石川 守(北海道大学)、舘山 一孝(国立大学法人 北見工業大学、共同)、永井 裕人(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)

[ACC28-P05] 天山山脈・ウルムチNo.1氷河におけるシアノバクテリアの空間分布とその要因

*高橋 翼1杉山 涼1竹内 望1 (1.国立大学法人 千葉大学)

キーワード:シアノバクテリア、氷河

地球上の様々な極限環境で繁殖することが知られるシアノバクテリアは,世界各地の氷河の表面にも広く生息している.氷河上で繁殖するシアノバクテリアは約20種の存在が明らかになっており,それぞれの種は地域や氷河上の条件によって異なる分布を示す.これは,それぞれの種が特有の生息条件や生活史,分散過程を持つためと考えらえる.氷河上のシアノバクテリアは,クリオコナイト形成を形成し氷河表面のアルベドを低下させ融解を促進するため,それぞれの種と繁殖する環境条件の関係を理解することは重要である.しかしながら,氷河に繁殖するシアノバクテリアの種の構成を決定する環境要因については,よくわかっていない.そこで本研究では,天山山脈ウルムチNo.1氷河の氷河裸氷域で優占的に繁殖する3種のシアノバクテリア(Oscillatoriales A,B,C)について,それぞれのバイオマスや種構成の空間分布を明らかにし,化学,物理条件と比較することで,シアノバクテリアの繁殖に関わる環境要因を明らかにすることを目的とした.3種のシアノバクテリアの細胞体積バイオマスを分析した結果,バイオマスおよび種構成比は氷河上で空間的に変化することが明らかになった.3種の合計バイオマスの地点平均は,氷河の左岸側,中央部,右岸側で有意な差があり,中央部で最も大きい値をとった.また,3種の合計バイオマスと鉱物量の間に有意な相関があったことから,シアノバクテリアの繁殖は,氷河上の鉱物粒子に影響を受けることが示唆された.3種のバイオマスは,Oscillatoriales Aは氷河全体で割合が小さいこと,Oscillatoriales Bは氷河下流左岸側で比較的割合が大きいこと,Oscillatoriales Cは氷河右岸側および氷河上流で比較的割合が大きいことが明らかになった.ウルムチNo.1氷河の積雪の融解は,氷河下流から始まり上流へと進んでいくこと,右岸側に比べて左岸側の融解が早く進むことがわかっている.このことから,Oscillatoriales Bが優占する表面は,冬期の積雪が早く消滅し裸氷面が露出した場所と一致し,Oscillatoriales Cは冬期の積雪が融解期の遅くまで残っている場所と一致する.氷河表面を覆う冬期の残雪は,裸表面の日射を遮る効果があるため,積雪が早く消滅した場所はより長い期間日射を受け,反対に遅くまで残る場所は日射が当たる期間が短い.したがって,Osci. Bは比較的長い期間日射を受ける環境で優占種となり,Osci. Cは残雪の融解から間もない表面で優占する種であると考えられる.この結果から,ウルムチNo.1氷河の3種のシアノバクテリアの種構成は,空間および経年的に変動し,その要因はそれぞれの種がもつ特性,特に日射に対する感受性の影響が大きい可能性があることがわかった.