[ACC29-P04] グリーンランド南東ドームアイスコアの近赤外反射率測定
キーワード:アイスコア、近赤外反射測定、グリーンランド
グリーンランド南東ドーム(以下SE-Dome、67.18°N, 36.17°W, 3170m a.s.l.)地域は両極の氷床の中でも涵養量が多いため、1年あたりのアイスコアが長く、過去60年の環境変動を詳細に記録している(Furukawa et al., 2017)。古環境をより精密に復元するには、積雪堆積後の水分子や不純物の移動・変質が起こりにくいことを確かめる必要がある。イオン濃度などの不純物が積雪表面付近で再配分を受けにくいことはすでに評価されているものの(Iizuka et al., 2018)、より深部の圧密氷化過程で再配分がどの程度生じているのか評価されていない。そこで、本研究では主にSE-domeアイスコアの近赤外反射率を用いて、雪氷の圧密氷化過程における雪粒子の変態と化学成分の関係について考察した。
全長90.45mのSE-Domeコアを189セクションに区切り、近赤外写真を撮影した。写真の輝度から深度5mm平均の反射率(Ref)を算出した。反射率から比表面積(SSA)を下記のように求めた。反射率が70%以上の場合にはSSA ≒1.015×Ref -64.43、70%未満の場合にはSSA ≒ 0.3784×exp(Ref/24.46) という式を使用した。
各深度の積雪のSSAを測定した結果、氷板の直上や直下でSSAが約1mm2高くなっている層が2~5mの厚さで存在していた。この層が形成されたメカニズムについて下記のように考察した。(1)まず、氷板が形成されることにより、氷板が積載荷重を緩和することで雪の圧密を抑制したと仮説を立てた。しかし、同深度における密度の変化を見ると、SSAが高い深度において圧密が抑制されている傾向を確認できなかった。そのため、この仮説だけではSSAの高い層の形成要因を説明できない。(2)次に、氷板が形成されたことによって氷板が潜熱を放出し、氷の中で温度勾配によるしもざらめ雪が形成し、SSAの高い層が氷板の周囲に形成されたと考えた。しかしながら、SSAが高い値を示す層の厚さが2~5mあり、そのような広い幅の全層において霜ざらめ雪が形成されたとは考えにくいことや、X線CT画像から積雪構造に顕著な異方性を確認されなったため、この仮説だけではSSAの高い層の形成要因を説明できないと考えた。 (3) SSAの高い層の酸素同位体比の極大値はSSAが平均的な層に比べて低い値をとる。これは、酸素同位体比の極大値は夏の気温を示すプロキシであるため、SSAの高い層の夏の気温が冷涼であったことを示唆する。冷涼な夏によって雪の変態が進まず、SSAの低下を抑制したと考えることができる。
上述したように近赤外反射率を主軸としてX線密度、X線CT、水安定同位体比などの物理・化学データを比較したところ、(3)の仮説がもっともSSAの深さプロファイルを説明できた。今後、他の仮説も提示して検証していく必要があるが、本研究は積雪構造(SSA)が積雪堆積後の変化よりは堆積時の情報を保持していることを示唆している。
References
Furukawaet al., 2017, Seasonal-Scale Dating of a Shallow Ice Core from Greenland Using Oxygen Isotope Matching
between Data and Simulation. Journal of Geophysical Research: Atmospheres, 122 (20), 10,873-10,887.
Iizuka et al., 2018, A 60 year Record of Atmospheric Aerosol Depositions Preserved in a High-Accumulation Dome
Ice Core, Southeast Greenland. Journal of Geophysical Research: Atmospheres, 123 (1), 574-589.
全長90.45mのSE-Domeコアを189セクションに区切り、近赤外写真を撮影した。写真の輝度から深度5mm平均の反射率(Ref)を算出した。反射率から比表面積(SSA)を下記のように求めた。反射率が70%以上の場合にはSSA ≒1.015×Ref -64.43、70%未満の場合にはSSA ≒ 0.3784×exp(Ref/24.46) という式を使用した。
各深度の積雪のSSAを測定した結果、氷板の直上や直下でSSAが約1mm2高くなっている層が2~5mの厚さで存在していた。この層が形成されたメカニズムについて下記のように考察した。(1)まず、氷板が形成されることにより、氷板が積載荷重を緩和することで雪の圧密を抑制したと仮説を立てた。しかし、同深度における密度の変化を見ると、SSAが高い深度において圧密が抑制されている傾向を確認できなかった。そのため、この仮説だけではSSAの高い層の形成要因を説明できない。(2)次に、氷板が形成されたことによって氷板が潜熱を放出し、氷の中で温度勾配によるしもざらめ雪が形成し、SSAの高い層が氷板の周囲に形成されたと考えた。しかしながら、SSAが高い値を示す層の厚さが2~5mあり、そのような広い幅の全層において霜ざらめ雪が形成されたとは考えにくいことや、X線CT画像から積雪構造に顕著な異方性を確認されなったため、この仮説だけではSSAの高い層の形成要因を説明できないと考えた。 (3) SSAの高い層の酸素同位体比の極大値はSSAが平均的な層に比べて低い値をとる。これは、酸素同位体比の極大値は夏の気温を示すプロキシであるため、SSAの高い層の夏の気温が冷涼であったことを示唆する。冷涼な夏によって雪の変態が進まず、SSAの低下を抑制したと考えることができる。
上述したように近赤外反射率を主軸としてX線密度、X線CT、水安定同位体比などの物理・化学データを比較したところ、(3)の仮説がもっともSSAの深さプロファイルを説明できた。今後、他の仮説も提示して検証していく必要があるが、本研究は積雪構造(SSA)が積雪堆積後の変化よりは堆積時の情報を保持していることを示唆している。
References
Furukawaet al., 2017, Seasonal-Scale Dating of a Shallow Ice Core from Greenland Using Oxygen Isotope Matching
between Data and Simulation. Journal of Geophysical Research: Atmospheres, 122 (20), 10,873-10,887.
Iizuka et al., 2018, A 60 year Record of Atmospheric Aerosol Depositions Preserved in a High-Accumulation Dome
Ice Core, Southeast Greenland. Journal of Geophysical Research: Atmospheres, 123 (1), 574-589.