日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] Eveningポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG38] 北極域の科学

2018年5月24日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:津滝 俊(東京大学)、漢那 直也(北海道大学 北極域研究センター)、鄭 峻介(北海道大学 北極域研究センター、共同)、中村 哲(北海道大学大学院地球環境科学研究院)

[ACG38-P14] 北極海植物プランクトン群集に対する昇温・酸性化・低塩化の影響

*杉江 恒二1,2藤原 周2西野 茂人2亀山 宗彦3 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境観測研究開発センター、2.国立研究開発法人海洋研究開発機構 北極環境変動総合研究センター、3.北海道大学大学院 地球環境科学研究院)

キーワード:植物プランクトン、海洋酸性化、地球温暖化、低塩化

北極海の環境は季節によって大きく変化する。また,北極海における環境変化は全球平均よりも大きいことが近年の観測により明らかになってきており,その傾向は将来予測においても同様であることが示唆されている。しかしながら,海洋生態系の基盤である植物プランクトン群集動態と環境変化の関係性については未解明な点が多い。そこで本研究では,西部北極海のチュクチ海のプランクトン群集を用いて水温,pHおよび塩分の条件を操作した培養実験を行い,それらの環境じょう乱が植物プランクトン群集動態に及す影響を調べた。培養実験はJAMSTECの海洋地球研究船「みらい」MR15-03およびMR16-06次の北極航海時に1回ずつ行った。水温は現場水温の対照区(LT)と現場+4~5°Cの昇温区(HT),pHは対照区(pH = ~8.1)と7.7~7.8の低pH区(HC: pCO2にして600–800 μatm),塩分は対照区と約1.5低下させた低塩区(LS)を設定し,LT, LTHC, LTLS, LTLSHC, HT, HTHC, HTLS, HTHCLSの合計8実験区を設けた。各航海での実験において共通して昇温はほぼ全ての植物プランクトンの比増殖速度を上昇させた。酸性化や低塩化は10 μm未満の小型の植物プランクトンの比増殖速度を加速させる効果があり,特にMR16の実験では,酸性化あるいは低塩化,または両方の要因によって緑藻,プラシノ藻,シアノバクテリア,プリムネシオ藻類の比増殖速度が上昇していた。一方,10 μm以上の画分に含まれる比較的大型の珪藻や渦鞭毛藻の比増殖速度は昇温による加速以外に有為な変化は見られなかった。以上の結果は,群集のサイズ組成が酸性化や低塩化の影響を受けて小型にシフトすることを示唆している。北極海で観察されている小型植物プランクトンの優占度が上昇した要因は,融氷水や河川水などの淡水流入の増加に伴う成層の強化が海洋表層の貧栄養化をもたらした結果と考えられているが(Li et al. 2009, Science),海洋酸性化や塩分の低下は過去に観察された小型植物プランクトンの優占度の上昇傾向を加速させる要因かもしれない。