日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG41] 植物プランクトン増殖に関わる海洋-大気間の生物地球化学

2018年5月22日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:宮崎 雄三(北海道大学低温科学研究所)、西岡 純(北海道大学低温科学研究所)、鈴木 光次(北海道大学、共同)、岩本 洋子(広島大学 生物圏科学研究科)

[ACG41-P03] 植物プランクトン増殖と死滅における有機ガスの発生

*大木 淳之1金子 圭吾1大津 将史1南川 佳太1木島 聡志1野村 大樹1 (1.北海道大学)

キーワード:イソプレン、ハロカーボン、ヨウ素

海洋では有機ガスが発生して、その一部が大気へ揮発する。海洋由来の有機ガスには、有機硫黄ガス(ジメチルサルファイドや硫化カルボニル)、非メタン炭化水素(イソプレン)、ハロカーボン類(塩素、臭素、ヨウ素を含む有機ガス)があり、これらは大気化学反応に重要な役割を果たしている。海洋における有機ガスの時空間分布を調べると、植物プランクトンが多く生息する場所で、有機ガス濃度が高い傾向がある。そのため、有機ガスの多くは海洋微生物(主に植物プランクトン)が生成源であることが推測されてきた。室内培養実験の既往研究によると、イソプレンは植物プランクトンの光合成時に発生することが明らかになっている。ハロカーボンのうち有機ヨウ素ガスについても、植物プランクトンが発生源であることが提唱されているが、本当に植物が直接放出しているのか不明な点が多い。本研究では、北海道噴火湾で有機ガスの時系列観測をして、海洋分布を決める要因を明らかにすることを目的とした。
 2014~2017年の期間に、北海道噴火湾におけるイソプレンの鉛直分布の時系列変化を調べた。各年とも、植物プランクトンの春季ブルームが始ってからイソプレン濃度が増え始め、ブルーム後の5~8月に最大濃度を迎えることわかった。有光層内で濃度極大を示すことから、植物プランクトンの光合成に由来してイソプレンが生産され、それが春から夏にかけて海水中に蓄積することが考えられた。いっぽう、有光層以深(底層90m)でも、5月から8月にかけて濃度が増加した。この期間、底層水は湾底に滞留しており、この水塊内で光合成が起こることは考えられない。光合成に直接由来しないイソプレンの発生があることが示唆された。植物プランクトンの暗所培養を行ったところ、光合成が起こらない条件下でもイソプレンが発生することがあった。暗所において、植物プランクトンを動物プランクトンに摂餌させたときに、イソプレンの増加が確認された。したがって、噴火湾の有光層以深(底層)では、表層から沈降してきた植物プランクトンが死滅するときにイソプレンが放出された可能性がある。イソプレン以外でも、有機ヨウ素ガスのヨードメタンやヨードエタンも植物プランクトンの暗所培養で発生しており、噴火湾底層で増加する観測結果を裏付ける結果が得られた。また、対数増殖期にある植物を暗所培養しても有機ガスの発生量は少なかった。海洋植物が死滅するタイミングでの有機ガス発生のメカニズムを詳しく調べる必要がある。