日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG42] 沿岸海洋生態系─1.水循環と陸海相互作用

2018年5月24日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、小路 淳(広島大学大学院生物圏科学研究科)、山田 誠(龍谷大学経済学部、共同)、藤井 賢彦(北海道大学大学院地球環境科学研究院)

[ACG42-P01] 有明海北岸域の干潟表層堆積物中のフミン酸画分の分析による干潟表層における陸域有機物の影響の評価

黒川 耀之介1、*山内 敬明2 (1.九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻、2.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

キーワード:フミン酸、有明海、同位体比、原子数比、多変量解析

堆積物中の有機物の大部分は腐植物質と呼ばれる高分子化合物である。腐植物質のうち酸に不溶でアルカリに可溶な画分であるフミン酸は抽出と単離が容易なためしばしば環境評価に用いられている[1]。近年有明海では, 北部域における反時計回り循環流の減少[2]が報告されており, これによる物質循環や周辺環境への影響が懸念されている[3]。本研究では有明海北岸の沿岸域フミン酸の構造特徴を調べることで陸域有機物がどの程度地域の表層堆積性有機物に影響を与えているか,解析することとした。
干潟土壌サンプルは有明海北部の4地点でほぼ2年に渡り7回採取した. フミン酸の抽出・精製は国際腐植物質学会の定める土壌フミン酸抽出方法に則った. 化学分析として元素分析, 可視紫外吸光度分析, 炭素・窒素安定同位体比測定, フェノール性水酸基濃度測定を行った. 元素分析から各原子数比(C/N,O/C,H/C)を求め,可視紫外吸光度分析から得られる400nmと600nmの吸収比をとったE4/E6比,リグニンの吸収する270nmと藻類由来のクロロフィルが加水分解したフェオ色素の吸収波長である407nmの吸収比によるA2/A4比[4]を含め8つのデータを用い,統計解析にて各データの差異と地域性の関係を考えることにした。
それぞれのデータを二次元プロットしたところ,炭素同位体比ないしフェノール性水酸基濃度とH/C比との間に強い相関が見られることなどを見出した。一方,主成分分析を行ったところ, 第三主成分までの寄与率が90%を超え,この中で大きく作用する5つのデータが抽出された。 それらのデータを用いてクラスター解析を行なった結果, サンプル群はまず大きく早津江川(筑後川支流)河口域干潟由来試料と,太良(今回調査でもっとも西側の地域)試料が別のクラスタとなる2つに分類された。さらにその下のクラスタでは概ね反時計回り海流に対応した方向を反映して各試料が分類された。過去のデータでは筑後川流域の下流から河口域でのフミン酸画分の変遷は流れに依存するとともに,河口域の試料は海洋性フミン酸の特長をよく示していたことも考え合わせると,本研究でのクラスタリングは海洋性フミン酸に含まれる陸性フミン酸の影響といった観点で分類されているようであり,これは筑後川の河川から運ばれる有機物の影響を反映していると思われる。つまり陸域有機物の影響は反時計回り循環流に乗って伝わり,地域の有機物組成や生物環境にも影響を与えているものと思われる。

[1] Moreda-Pineiro et al., Chemosphere, 64, 866 (2006). [2] 宇野木 沿岸海域研究 42, 85 (2004). [3] 横山,石樋 日本水産学会誌 75, 674 (2009). [4] Fooken and Liebezeit, Marine Geology, 164, 173-181 (2000).