[AHW23-P07] 山地源流域における六フッ化硫黄トレーサー涵養条件を考慮した基底流時地下水・湧水の平均滞留時間推定手法に関する実験的検討
キーワード:山地源流域、平均滞留時間、六フッ化硫黄、FLOWPC、滞留時間分布モデル、ガス涵養温度
地表面に供給された雨水が流域を通過し地下水や湧水・渓流水として現れるまでの時間は滞留時間と呼ばれ、流域内部における水の流路や貯留量、汚染物質や溶存物質の移動速度や更新性、土地利用変化による応答の評価など様々な指標として用いられる重要な水文情報である。比較的短い滞留時間を持つ流域斜面スケールを対象とした滞留時間推定には、酸素・水素安定同位体比(δ18O, δ2H)や塩素イオン(Cl-) などの雨水中濃度の季節変動性を利用した手法、フロン類(CFCs)や六フッ化硫黄(SF6)といった不活性ガスの流域内部における溶存濃度の保存性を利用した手法などが挙げられ、特に後者はわが国でも分析環境の整備とともに2010年頃より適用事例が増加しつつある。しかしこうした不活性ガスを水文トレーサーとして用いた場合にガスの涵養条件が持つ意味について言及されている研究例は非常に少なく、特にわが国においては流域内部へのガスの涵養条件設定に際して統一的な見解が得られていないのが現状である。そこで、本研究では不活性ガスを用いた平均滞留時間推定手法で前提とするガス涵養条件の設定の仕方に着目し、滋賀県田上山地に位置する桐生水文試験地(5.99ha, 北緯34°58’, 東経136°00’)内の小流域で採取されたサンプル中の溶存SF6濃度観測値を用いて、ガス種が水と溶解平衡に達した温度(涵養温度)やその季節変動性の考慮による平均滞留時間推定値への影響を検討した。なお、検討に際してはMaloszewskiらにより開発された地下水滞留時間の計算プログラムであるFLOWPC(ver.3.2.)を使用した。
ガス種の溶解平衡時の溶存濃度はヘンリー則に従ってヘンリー則定数KHおよび気体モル分圧Pi より導出され、これらは対象とするガス種が水に涵養された当時の温度・塩分濃度・標高をパラメータに持つ関数として求められるが、流域内標高幅の比較的小さい桐生水文試験地(190-255m)においては特に涵養温度の設定の仕方による平均滞留時間推定値の変動が顕著であった。大気中のSF6インプット濃度の涵養条件に温度の季節性を考慮し、桐生水文試験地における気温や地下水・渓流水温、地温といった温度情報の年内季節変動データを用いて大気中SF6ガスが流域内部へ涵養された当時の溶存濃度を数値実験的に検証した結果、大気中SF6の流域内部へのインプット溶存濃度計算値には1年周期の波が生じ、それによってサンプリングされる地下水・湧水中のアウトプット溶存ガス濃度も上下変動する可能性が示唆された。またこうしたアウトプット溶存濃度の上下変動により、高濃度で溶存ガス濃度が検出された場合についても一部説明が可能であることが指摘された。またFLOWPCによりSF6インプット濃度の滞留時間分布モデルを考慮して決定される平均滞留時間は、流域斜面土層内の飽和帯地下水における観測例で、涵養温度の季節性の考慮により30-70ヶ月程度と幅を持って推定される結果が得られた。
本研究では山地森林源流域内における地下水・湧水中の溶存SF6濃度の観測データを用いた数値実験的な検討を通して、不活性ガス種の涵養温度の設定値とその季節性の影響によって流域内部へのインプット溶存濃度およびアウトプット溶存濃度それぞれで上下変動が生じ、またそれにより平均滞留時間の推定値にも変動が生じうることが指摘された。しかし個々のサンプルに含まれるSF6やCFCsの溶存濃度を用いて推定される平均滞留時間は刻一刻と移り変わる瞬間値を切り取ったものであり、流域全体としての降雨流出特性を捉えるうえで、一度のサンプリングによって得られる推定値のみでは不十分とも考えられる。山地森林源流域を対象とした滞留時間推定を行っていくうえで、流域の水文気象条件に応じた降雨流出応答の時間的変化や渓流水質の観測値の時間的な変動を反映した柔軟な平均滞留時間の推定手法を検討していくとともに、不活性ガス種を水文トレーサーとして用いる場合の推定値の不確実性やその限界についてより慎重に吟味・検討していくことが、今後とも重要な課題である。
ガス種の溶解平衡時の溶存濃度はヘンリー則に従ってヘンリー則定数KHおよび気体モル分圧Pi より導出され、これらは対象とするガス種が水に涵養された当時の温度・塩分濃度・標高をパラメータに持つ関数として求められるが、流域内標高幅の比較的小さい桐生水文試験地(190-255m)においては特に涵養温度の設定の仕方による平均滞留時間推定値の変動が顕著であった。大気中のSF6インプット濃度の涵養条件に温度の季節性を考慮し、桐生水文試験地における気温や地下水・渓流水温、地温といった温度情報の年内季節変動データを用いて大気中SF6ガスが流域内部へ涵養された当時の溶存濃度を数値実験的に検証した結果、大気中SF6の流域内部へのインプット溶存濃度計算値には1年周期の波が生じ、それによってサンプリングされる地下水・湧水中のアウトプット溶存ガス濃度も上下変動する可能性が示唆された。またこうしたアウトプット溶存濃度の上下変動により、高濃度で溶存ガス濃度が検出された場合についても一部説明が可能であることが指摘された。またFLOWPCによりSF6インプット濃度の滞留時間分布モデルを考慮して決定される平均滞留時間は、流域斜面土層内の飽和帯地下水における観測例で、涵養温度の季節性の考慮により30-70ヶ月程度と幅を持って推定される結果が得られた。
本研究では山地森林源流域内における地下水・湧水中の溶存SF6濃度の観測データを用いた数値実験的な検討を通して、不活性ガス種の涵養温度の設定値とその季節性の影響によって流域内部へのインプット溶存濃度およびアウトプット溶存濃度それぞれで上下変動が生じ、またそれにより平均滞留時間の推定値にも変動が生じうることが指摘された。しかし個々のサンプルに含まれるSF6やCFCsの溶存濃度を用いて推定される平均滞留時間は刻一刻と移り変わる瞬間値を切り取ったものであり、流域全体としての降雨流出特性を捉えるうえで、一度のサンプリングによって得られる推定値のみでは不十分とも考えられる。山地森林源流域を対象とした滞留時間推定を行っていくうえで、流域の水文気象条件に応じた降雨流出応答の時間的変化や渓流水質の観測値の時間的な変動を反映した柔軟な平均滞留時間の推定手法を検討していくとともに、不活性ガス種を水文トレーサーとして用いる場合の推定値の不確実性やその限界についてより慎重に吟味・検討していくことが、今後とも重要な課題である。