日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW24] 熊本地震に伴う地表水と地下水の変化

2018年5月22日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:嶋田 純(熊本大学大学院自然科学研究科)、中川 啓(長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科)、細野 高啓(熊本大学大学院先導機構、共同)

[AHW24-P05] 熊本地震による地下水中の微生物群集構造の変化

森村 茂1、*登 直幹1曾 祥勇1竹下 美海1細野 高啓1嶋田 純1 (1.熊本大学)

キーワード:地下水、微生物群集構造、クローン解析

【緒言】熊本市は世界でも稀少な地下水都市であり、約75万人の水道水源のすべてを地下水で賄っている。熊本市の地下水には大きく2つの流れがあり、1つは阿蘇山周辺から江津湖を通って有明海に流れるAライン、もう1つは植木台地から南下し白川に沿って有明海に流れるBラインである。Bラインには、硝酸態窒素の除去を可能とする脱窒のホットスポットが存在する。2016年4月に熊本地震が発生し、地下水中の物理化学的パラメーターだけでなく、微生物の群集構造も変化したと推測された。そこで本研究では、地震後の地下水をサンプリングし、クローン解析により地下水中の微生物群集構造および脱窒菌叢を調べるとともに、地震前のデータと比較して、どのような変化が起こったかを推測した。
【実験方法】サンプルは、Aラインから1ヶ所・1サンプル (A-W)、Bラインからは脱窒のホットスポットにあたる2ヶ所・3サンプル(B-S, B-IS, B-ID) を選択した。採水後、Sterivex filter (Merck) でろ過し、PowerWater Sterivex DNA Isolation Kit (MO BIO) を用いてDNA抽出を行った。抽出したDNAを鋳型としてバクテリアの16S rRNA遺伝子および脱窒菌が有するnirS遺伝子を標的としたPCRを行い、目的とするDNA断片を増幅させた。得られたPCR産物を精製し、電気泳動により増幅の確認を行った。その後、LigationおよびTransformationの操作を常法にしたがって行い、LB-Amp寒天培地に塗布してコロニーを形成させた。白色を呈したコロニーを選択し、LB-Amp液体培地を用いて振とう培養を行い、培養液からプラスミドを抽出し、制限酵素処理によって目的のDNA断片が挿入されていることを確認した。タカラバイオ社にシーケンス解析を依頼し、得られた塩基配列データを用いてホモロジー検索および系統樹の作成を行った。
【結果・考察】地震後の菌叢は、地震前と比べて、門・綱のレベルでもβ-Proteobacteriaが減少してActinobacteriaが増加するという明らかな変化を示し、検出された属レベルの微生物群集構造はさらに大きく変化していた。例えば、地震前のBラインでは、B-IDで検出されたMethylomonas属やB-Sで検出されたMethylobacterium属がそれぞれ大きなクラスターを形成し、これらのタイプ1のメタン資化性細菌が重要な役割を果たしていたのに対し、地震後の2016年はそれらのクラスターはまったく見られなかった。また、AラインのH-Wにおいても、地震前ではCurvibacter属やSulfuritalea属が主要なクラスターを形成していたが、地震後にはそれらのクラスターが見られなかった。さらに、地震後の系統樹では、地震前には見られなかったバクテリアが大きなクラスターを形成していた。地震後に増加した属は、土壌のような自然環境よりもヒトの生活環境から検出される一般的な細菌の比率が高く、地震の発生に伴って人間の生活環境からの影響を受けたことが推測された。脱窒菌に関しても地震前後で変化が見られ、地震前はPCRによってnirS遺伝子の増幅が認められたのに対し、地震後のサンプルでは増幅強度が低下し、電気泳動写真では確認できなくなった。地震後の地下水サンプルを脱窒菌用培地を用いて集積培養を行った結果、(過)塩素酸を嫌気環境下で還元できるDechlorosoma suillum PSの近縁種などが検出された。