日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW25] 同位体水文学 2018

2018年5月23日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)

[AHW25-P05] 摩周湖および摩周火山山麓湧水の滞留時間について

*大八木 英夫1浅井 和由8五十嵐 聖貴4小林 拓7武内 章記2深澤 達矢5藤江 晋3南 尚嗣6田中 敦2 (1.日本大学文理学部地球科学科、2.国立環境研究所、3.てしかが自然史研究会、4.北海道立総合研究機構、5.北海道大学、6.北見工業大学、7.山梨大学、8.地球科学研究所)

キーワード:滞留時間、トリチウム、摩周湖

北海道東部に位置する閉塞湖である摩周湖は,約7,000年前の摩周火山の噴火によって陥没したカルデラ凹地に水がたまって形成されたもので,国立公園の特別保護地区となっている。本湖では,人間活動の影響が小さく,高い透明度が観測されており,1917年より透明度が観測され始め,1931年には41.6mが報告され,現在でも平均的に20~30mの透明度をほこる。また,本湖は,流出河川がない閉塞湖であるが,火山山麓周辺地域では湧水が発達しており,その起源の一部には摩周湖の湖水からの浸透水が考えられている。摩周湖では,水収支解析として湖水位の計測が行われ,近年では10年間の観測では1.0m程度で比較的安定した水位となっているが,湖水水位上昇量は湖面積と流域面積の比が小さいため,降水量に影響受け,湖水位低下の主な要因は,本地域が寒冷な気候であることから湖面蒸発によるものではなく,流域外へと浸透していることが考えられる。このことから,比較的長い滞留時間が推定されてきた。そこで,本研究では,摩周湖およびその周辺の湧水の滞留時間について考察する。

湖水の水深100m・200mの3Hは,3.3・3.5TUとなった。本湖は,水深212mの大深度湖沼であるが,冬季に湖面結氷する年があることから2回循環する湖沼であるといえる。しかし,湖水温が表層から湖底まで等温になる期間が数日程度で,循環期間が短いものであると推測されているが,100m以深においても3Hが検出され,このほか,CFCsなど人間活動を起源とする物質の分析結果からも大気に近い値を示したことから,表層から湖底まで大気が溶解した状態になっていることが示唆され,完全混合した湖水が浸透し,周辺湧水への影響があることが考えられる。

摩周湖周辺には約20 ヶ所程度の湧水が確認されており,北斜面のδ18OとδDは,それぞれ-10.77~-10.89‰・-70.66~-72.19‰,南西斜面で-10.25~-10.43‰・-66.99~-67.79‰,南東斜面で,-9.06~-9.36‰・-62.95~-63.50‰であった。主に湧出標高や摩周湖からの斜面方向によって分類され,外輪山への降水が浸透し湧出する湧水,摩周湖の湖水(δ18O:-7.06~-7.40,δD:-49.28~-51.02)を起源とする湧水やその両方が混合している湧水に分類される。この結果,南東斜面の湧水が摩周湖との関係性が強いことが明らかにされた。また,特に,湖水の浸透水の影響が強いと考えられている,西別川にある虹別地域の湧水(南東斜面)の3Hは,2.7TUで,湖水に比べて低い値が確認された。湖水および周辺湧水は,いずれも,1980年代以降の降水と同レベルにあることから,近年の降水による涵養の影響を強く受けていると考えられる。これらの結果に加えて,CFCsやSF6に基づく涵養年代は,湖に流入する小規模の湧水が数年程度,北斜面の湧水が20~30年程度,南西・南東斜面湧水が30~40年程度を考察され,摩周湖の浸透水の影響のある地域においては,湧水の滞留時間が長くなる傾向にあると考察された。