日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] Eveningポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS09] Marine ecosystems and biogeochemical cycles: theory, observation and modeling

2018年5月23日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:伊藤 進一(東京大学大気海洋研究所)、平田 貴文(北海道大学地球環境科学研究院)、Eileen E Hofmann (共同)、Enrique N Curchitser (Rutgers University New Brunswick)

[AOS09-P02] CMIP5モデル結果解析による地球温暖化が海洋基礎生産に与える影響の定量的評価~海域及びモデル間の違いに着目して~

*中村 有希1岡 顕1 (1.東京大学)

キーワード:地球温暖化、海洋基礎生産、CMIP5

地球温暖化の進行により、海洋では成層化、酸性化、貧酸素化などの変化が生じ、海洋生態系にも影響をもたらすことが指摘されている。モデルを用いた複数の先行研究によって、将来的に植物プランクトンによる全球の海洋基礎生産(NPP;net primary production)は減少することが示されている。そのメカニズムは、全球的な温暖化により海洋の成層が強化し、深海からの栄養供給が抑制されることで、海面に植物プランクトンが利用できる栄養が減少するためだと考えられている。先行研究のほとんどは栄養制限に焦点を当てているが、実際には植物プランクトンの成長は温度、光、栄養の3つの要素が律速している。しかし、各制限要因の寄与を定量的に調べている研究は少ない。またNPPは将来的に減少する海域だけでなく、増加する海域もあるにも関わらず、多くの研究が全球平均の議論に留まっており、海域ごとの研究も不十分である。

本研究の目的は、地球温暖化による海洋基礎生産の将来変化を、CMIP5(Coupled Model Intercomparison Project Phase 5)モデルを用いて、海域ごとに定量的に評価することである。CMIP5モデルでは温度制限、光制限、栄養制限の出力がないため、まずそれらの制限要因の再計算を行う。その上で、NPPの変化の主要因を定量的に評価する。まずは全球のメカニズム、そして低緯度、北大西洋、北太平洋、北極海、南大洋に分けて、海域ごとのメカニズムについてそれぞれ議論した。本研究の結果から、全球的にはNPPは減少し、モデル平均ではその主要因は栄養制限であることが確かめられた。しかしモデルごとにみると植物プランクトンのバイオマスや温度制限が主要因となる場合もあった。栄養制限に焦点をあててきた先行研究の結果とは異なり、温暖化による植物プランクトンの成長促進、捕食などによる植物プランクトンバイオマスの減少についても重要であることがわかった。海域ごとにみると、まず低緯度は、全球のNPPの半分以上を生産する海域であり、その変化については全球と同様のメカニズムが働いていることが確かめられた。北大西洋は、将来的にNPPが最も減少する海域であるが、その理由は成層強化が顕著にみられる海域であり、栄養制限が強くかかるからであった。北太平洋は北大西洋と同じ緯度にありながらNPPが増加する海域であるが、その理由は著しい海氷の後退により昇温が大きくみられるからであることがわかった。そして極域の北極海と南大洋では、それぞれで異なるメカニズムがみられた。北極海は海氷の融解による光制限の緩和が植物プランクトンの光合成を活発化させ、NPPが増加する海域であり、このメカニズムは全てのモデルで共通していた。一方、南大洋はモデル平均では温度制限の緩和が主要因であったが、モデルによりNPP変化のメカニズムが大きく異なり、不確実性が大きい海域であった。不確実性が大きい要因は光制限にあり、海氷や放射量などの物理場の予測がモデルにより大きく異なっていることが考えられる。

以上のようにNPPの制限要因を定量的に評価することにより、温暖化によるNPPの将来変化には、栄養制限だけでなく他の制限要因の寄与も重要であることがわかった。またNPPの将来変化は海域ごとに異なっており、そのメカニズムも海域によって異なっていることがわかった。