日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS18] 海洋物理学一般

2018年5月22日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:岡 英太郎(東京大学大気海洋研究所)、川合 義美(国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境観測研究開発センター)、東塚 知己(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

[AOS18-P04] 沖縄トラフ中深層の栄養塩輸送

*仁科 文子1中村 啓彦1横川 太一2川口 慎介2 (1.鹿児島大学、2.海洋研究開発機構)

キーワード:沖縄トラフ、琉球海流系、湧昇

沖縄トラフは最大水深が北部では1500m,南部では2300mに及ぶ深い海である.一方,南西諸島により北太平洋と隔てられており,500m以深の中深層部への海水流入は主に,台湾―与那国島の海峡とケラマギャップを通して行われている.しかし,これらの海峡やギャップの水深は最も深いケラマギャップで約1100mしかなく,沖縄トラフの特に南部の1100m以深は外洋との直接の海水交換が無い海である.塩分極小で特徴付けられる北太平洋中層水は台湾―与那国島の海峡とケラマギャップを通過して沖縄トラフに流入し,鉛直混合により変質しながらトラフ内を北上する.ケラマギャップから流入する北太平洋中層水は南西諸島の東側斜面沿いを北上してきたものである.ケラマギャップ内には北太平洋側にあるシルをはじめ,複数のシルがある.これらのシル上を海水が越えるときに激しい鉛直混合が起きる.沖縄トラフは北太平洋の子午面循環の最大の湧昇スポットである可能性が指摘されており,そのメカニズムとしてケラマギャップで起きる鉛直混合や黒潮が島嶼間を通過するときに起きる乱流混合,内部波などが考えられている.この海域での鉛直混合により浮力を得た海水の湧昇は下層から表層への栄養塩供給にもなるため,貧栄養と考えられている黒潮域表層の海洋生態系への影響も少なくないと考えられる.
本研究では,おもに沖縄トラフとその周辺海域で2017年5月-6月に実施された鹿児島大学水産学部附属練習船「かごしま丸」(KG1708)と海洋研究開発機構の海洋地球研究船「みらい」(MR17-03C)による,CTD・LADCP・栄養塩の観測結果を用いて,沖縄トラフに流入する海水の混合・変質過程を栄養塩に注目して追った.その結果,沖縄トラフでの北太平洋中層水のコア密度26.7σθ面上の硝酸塩はケラマギャップ内で北太平洋側の28.8μmol/Lからケラマギャップ通過後の29.6μmol/Lに濃度が高くなっており,下層との混合の結果と考えられた.その後,大陸棚に沿って北上する過程で上層の海水と混合して濃度が低くなった.また,宮古島南東の海山の下流側など,上方に伝播する内部波が観測された測点での中深層の硝酸塩が周辺よりも高くなっており,海底地形による混合も考えられた.発表では栄養塩の輸送量についても述べる.