日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-BG 地球生命科学・地圏生物圏相互作用

[B-BG02] 生命-水-鉱物-大気相互作用

2018年5月21日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:高井 研(海洋研究開発機構極限環境生物圏研究センター)、中村 謙太郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、上野 雄一郎(東京工業大学大学院地球惑星科学専攻、共同)、鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)

[BBG02-P03] シアノバクテリアの石灰化における細胞外高分子の役割

*尾森 武尊1富岡 尚敬2甕 聡子2高橋 嘉夫3白石 史人1 (1.広島大学、2.海洋研究開発機構、3.東京大学)

酸素生成型光合成細菌であるシアノバクテリアは,周辺の水化学組成によっては石灰化することが知られている.そのような石灰化したシアノバクテリアの化石は特に顕生代において広く見られ,その産出頻度の変動は過去の海水化学組成(特にpHなど)を復元するために重要である.シアノバクテリアの石灰化には1) 光合成によるCaCO3鉱物飽和度の上昇,および2) 細胞外高分子(EPS)の酸性官能基による結晶核形成場の提供が重要であると考えられている.天然試料に基づく先行研究からは,石灰化の有無や様式におけるEPSの重要性が指摘されている.しかしながら,特に石灰化様式については,結晶の形態や配列,前駆体(非晶質炭酸カルシウム:ACC)の有無などにおけるEPSの影響について,未だ理解が進んでいない.そこで本研究は,培養シアノバクテリアを用いてEPSの物理的・化学的特性と石灰化様式の関係について検討を行う.
 まず,EPS特性の異なる4種類のシアノバクテリア(Spirulina, Leptolyngbya, Phormidium, Scytonema)を培養し,酸塩基滴定およびレクチン結合解析によってEPSに含まれる酸性官能基の定性・定量を行った.このシアノバクテリアを水槽(pH = 約8.5,[Ca2+] = 2 mM,DIC = 2 mM)に移し,光を照射して石灰化実験を行った.微小電極(pH,O2,Ca2+)によるモニタリングから,4種類のシアノバクテリアは程度に差はあるものの,全て光合成によってCaCO3沈殿を誘導していることが示された.しかしながら,石灰化の有無や形成されるCaCO3結晶の形態は種類によって大きく異なっており,EPSをもたないSpirulinaは石灰化せずに直径約1 mmの結晶が周囲にわずかに散在,非酸性EPSをもつLeptolyngbyaは石灰化せずに直径約10 mmの菱面体結晶が周囲に散在,一部に酸性EPSをもつPhormidiumはEPS外部が直径約20 mmの立方体結晶によって石灰化,酸性EPSをもつScytonemaはEPS外部が直径約20 mmの菱面体結晶によって石灰化された.これらの結果から,シアノバクテリアの石灰化には酸性EPSが重要な役割を果たしていることが示された.また,石灰化したScytonemaから集束イオンビーム加工によって超薄片を作成し,透過型電子顕微鏡(TEM)および走査型透過X線顕微鏡(STXM)で観察を行ったところ,ScytonemaのEPS上に晶出したのは方解石単結晶であったが,EPSに近接する部分(厚さ約100~200 nm)にACCの特徴が見られた.ACCとEPSの境界にはカルボキシル基が不均一に濃集しており,このようなEPS中の高酸性度領域がACC前駆体の起点となり,その後の方解石結晶核形成を引き起こしたと推察される.