日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-BG 地球生命科学・地圏生物圏相互作用

[B-BG03] 地球惑星科学と微生物生態学の接点

2018年5月23日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:砂村 倫成(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、濱村 奈津子(九州大学)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター、共同)、諸野 祐樹(海洋研究開発機構高知コア研究所)

[BBG03-P02] 堆積物形成の初期における磁性細菌Magnetospirillum magnetotacticum MS-1の磁場応答とその磁化

*政岡 浩平1片岡 悠成1諸野 祐樹2富岡 尚敬2浦本 豪一郎1吉金 奈菜1山本 裕二1 (1.高知大学、2.海洋研究開発機構高知コア研究所)

海底堆積物には,磁気的に過去の地磁気の方位や強度の変動の様子が記録されている(自然残留磁化; NRM).このNRMの記録媒体である磁性鉱物は陸起源だけでなく,磁性鉱物にも起源をもつことが分かってきている.NRMの20-30%が磁性細菌起源のマグネタイトに担われているとの報告もあり(Yamazaki, 2012; Yamazaki and Ikehara, 2012),近年,その量的な重要性が指摘され始めている.しかし,磁性細菌起源のマグネタイトがNRMを獲得する過程や獲得されるNRMが示す性質については未解明の部分が多い.本研究では,微好気性磁性細菌Magnetospirillum magnetotacticum MS-1を大量培養し,細胞内に形成したマグネタイトが堆積物の形成直後のごく初期においてNRMを獲得するプロセスの模擬実験を行なって磁気測定用試料を作製し,各種残留磁化の性質について検討を行なった.

 分譲を受けたMagnetospirillum magnetotacticum MS-1を大量培養し,密度勾配遠心分離法(密度分離)によって固定済みの磁性細菌を回収した.これらを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ,長さ3-8 µm×幅0.3-0.5 µmの細胞が多数観察できた.細胞外には一切の磁性鉱物(培地由来など)は確認されず,細胞内に粒径40-50 nmの自形のマグネタイト粒子を直鎖状に20-90個形成している個体が確認できた.堆積物の形成直後のごく初期においてNRMを獲得するプロセスを再現するため,一定の細胞数となるように融解状態の低融点アガロースに懸濁して小プラスチック容器に満たし(1試料 2.835×109 cell/7 cc),地球磁場程度の磁場中に容器を30分程度静置してアガロースを固結させることで,磁気測定用試料を作製した.作製にあたっては,試料ごとに異なる強度の外部磁場(0-100 µT)を作用させ,獲得させたNRMに対して減衰する交流磁場中で試料の磁化を段階的に除去する段階交流消磁を行なった.さらに減衰する交流磁場中で同時に直流磁場を作用させることにより獲得される非履歴性残留磁化(ARM)と室温で強磁場を作用させることにより得られる等温残留磁化(IRM)をそれぞれ一定の磁場強度で着磁した.その後,それぞれに対して段階交流消磁も行なって,これらの残留磁化の性質も調べた.
 NRM方位は試料作製時の磁場方位と同じであった.NRM強度は0.286-8.17×10–8 Am2であり,試料作製時の磁場強度との間には,0-30 µTと30-100 µTの範囲で独立した2つの直線関係が見られ,これらの関係は2次回帰曲線で説明することも可能であった.ARM強度は0.972-1.46×10–8 Am2,IRM強度は0.819-1.11×10–7 Am2であり,両者ともに試料作製時の外部磁場強度との間に2次関数的な関係があるが,獲得された磁化強度の差はNRMに比べて非常に小さい.磁性細菌Magnetospirillum magnetotacticum MS-1は活動を終えても,堆積物形成のごく初期においては外部磁場に沿って,その方位や強度を記録していることがわかる.試料が獲得したNRM強度は,一般的な海底堆積物に記録されているNRM強度よりも大きいことから,獲得した磁化はその後の生物擾乱や続生作用などによって徐々に失われていくと考えられる.