日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG09] 地球史解読:冥王代から現代まで

2018年5月22日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源研究開発センター)

[BCG09-P08] カナダ・スワイズ緑色岩体クカタッシュ地域に産する約27億年前縞状鉄鉱層とそれに伴う黒色頁岩の地質学的・地球化学的研究

*根本 拓1掛川 武1 (1.東北大学大学院理学研究科地学専攻)

キーワード:太古代、縞状鉄鉱層、黒色頁岩、炭素・硫黄同位体

約27億年前は, 火成活動が活発で, 海底熱水鉱床や縞状鉄鉱層(BIF)が地球史を通して多量に形成されたことが知られている. このことはこの時代の海洋に対する金属元素や硫黄のフラックスが増大したことを意味する. さらに27億年前の海洋環境においては「大規模メタン酸化の開始」や「硫酸に乏しい海洋」説が先行研究で提唱されて来ており, 当時の微生物活動に制約を与えるとされていた.
カナダ・オンタリオ州クカタッシュ地域では約27億年前のBIFが産出する. 本研究では約27億年前BIF形成堆積盆での生態系を明らかにすることを目的とした. 本地域で(1)地質調査, (2)全岩化学組成分析, (3)有機物や鉱物の組成分析及び安定同位体組成分析を行った.
本地域でのBIFの上盤は超苦鉄質岩, 下盤は珪長質凝灰岩に挟まれ, 層厚は20mほどであることが分かった. 磁鉄鉱や菱鉄鉱がBIFの主要鉄鉱物であった. その中に黒色頁岩が二層観察された. 一層目の黒色頁岩は凝灰岩とBIFの境界に存在し, 層厚は約4.5m,主な構成鉱物は粘土鉱物, 黄鉄鉱, 炭酸塩鉱物であった. もう一方の頁岩(上層)は, BIFに挟まれて層状に存在し, 層厚は約0.5m,主な構成鉱物は粘土鉱物, 磁硫鉄鉱であった. BIFや頁岩を含む33試料で酸処理により有機物の分離を試みた. しかし, BIFの全岩有機炭素含有量(TOC)は検出限界(0.1wt%)以下となり, 分析に十分な量の回収が困難であった. 一方で頁岩はTOCが0.2 ~ 2.1%であった. これらの有機物のδ13C値は-31.2 ~ -30.2‰という値であり, 27億年前に特徴的なメタン生成・メタン酸化の痕跡は認められなかった. 頁岩中の黄鉄鉱に対し硫黄同位体組成を測定したところ, -1 ~ +15‰のバリエーションが見られた. このことは堆積物中の硫酸還元菌による硫黄の同位体分別が黄鉄鉱形成に関わった可能性を示している. この結果から本地域の海洋に硫酸が豊富に存在したことを示す. このことは, 有機物の δ13C値とも整合的で, 硫酸の存在によってメタン生成菌の活動が制約された可能性を示す. 逆に有機物のδ13C値はシアノバクテリアを一次生産者とした値を反映している可能性が高い. このような特徴は27億年前の他の地域では見出されなかった特徴であり, 27億年前の海洋環境や微生物活動に対する新たな制約を与える.