日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT06] 地球生命史

2018年5月20日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:本山 功(山形大学理学部地球環境学科)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)

[BPT06-P09] 上総層群黄和田層上部の石灰質ナノ化石層序と推定される海洋環境の変化

*桑野 太輔1亀尾 浩司2 (1.千葉大学大学院融合理工学府地球環境科学専攻、2.千葉大学理学研究院地球科学研究部門)

キーワード:石灰質ナノ化石、古海洋学、第四紀、上総層群、黄和田層

本邦太平洋側に位置する房総半島中部には,前期−中期更新世の海成堆積物である上総層群が分布している.上総層群は,地表での露出状況が極めてよく,多くのテフラ鍵層が挟在し,各種の微化石を含むことなどから本邦第四系の代表的な地層群の一つとされ,数多くの地質学的研究が行われてきた (三梨ほか,1959など).特に,様々な微化石層序(Oda, 1977; 佐藤ほか,1988など)の検討や,微化石による海洋環境の復元(五十嵐,1994など)が試みられている.中でも佐藤ほか(1988)は,北西大西洋において確立された石灰質ナノ化石基準面(Takayama and Sato, 1987)を上総層群に適用し,上総層群の各層の年代を明らかにした.現在では,石灰質ナノ化石基準面の時間分解能が向上し,より詳しく,数千年オーダーでの地質時代の議論が可能になった (Raffi et al., 2006など).本論では,石灰質ナノ化石基準面が多く認められる黄和田層の上部を対象にして,詳細な石灰質ナノ化石層序を検討するとともに,石灰質ナノ化石による黄和田層上部堆積時の本邦周辺における表層海洋環境を推定することを目的に研究を行った.
本研究で検討したのは,養老川の支流に相当する夕木川沿いに露出する黄和田層である.この黄和田層から得られた31試料から13属19種の石灰質ナノ化石を認定した.検討の結果,テフラ鍵層Kd1のわずか上位の層準において大型のGephyrocapsa属の産出上限を,テフラ鍵層Kd17の上位の層準においてHelicosphaera selliiの産出上限をそれぞれ認めた.既存の酸素同位体層序(Pickering et al., 1999)を参考にすれば,前者の基準面はMIS35付近に位置する可能性がある.しかしながら,H. selliiの産出は散点的であること,また,黄和田層にはスランプが多く見られることから,同種の産出上限を正確に決定することは難しい.一方,環境指標種の層位的変化に基づけば,黄和田層上部堆積時における表層海洋環境は,おおむね黒潮水域から黒潮フロントに近い混合水域下であったと推定される.また,テフラ鍵層Kd6上位,およびKd1の直下において寒冷な水塊の存在を示すとされるCoccolithus pelagicus (Tanaka, 1991) が多産することから,1.33 Ma,および1.21 Maに一時的に黒潮フロントと親潮フロントが南下し,寒冷な表層水の影響も受ける混合水域下になることがあると考えられる.また,Kd1からその上位においてC. pelagicusUmbilicosphaera sibogaeの多産層準が繰り返すことから,1.21 Ma以降,短い周期で黒潮フロントや親潮フロントの北上,南下が繰り返されていたことが示唆される.

引用文献
五十嵐, 1994, 地質学雑誌, 100, 348–359., 三梨ほか, 1959, 地調月報, 10, 82–98., Oda, 1977, Sci. Rep., Tohoku Univ., 2nd ser. (Geol.), 48, 1-76., Pickering et al., 1999, Journal of the Geological Society, 156, 125–136., Raffi et al., 2006, Quaternary Science Reviews, 25, 3113-3137., 佐藤ほか, 1988, 石油技術協会誌, 53, 475-491., Takayama and Sato, 1987, Initial Report, DSDP, 94, 651-702., Tanaka, 1991, Sci. Rep., Tohoku Univ., 2nd ser. (Geol.), 61, 127-198.