日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG27] 原子力と地球惑星科学

2018年5月24日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、佐藤 努(北海道大学工学研究院)、幡谷 竜太(一般財団法人 電力中央研究所)

[HCG27-P05] 鉱物情報に基づく地下水水質の予測手法の構築

*村上 裕晃1岩月 輝希1 (1.国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)

キーワード:地下水、熱力学解析、石灰岩地域

はじめに
高レベル放射性廃棄物の地層処分に関わる安全評価では、放射性元素の挙動を推測するために、地下水の塩濃度、pHや酸化還元状態などの地球化学特性の長期的な変動幅を推測する必要がある。このためには、地下水の水質形成プロセスを理解することが重要となる。地下水の水質は、水質の異なる複数の地下水の混合を考慮しない場合、岩盤中での水-鉱物(-微生物)の相互反応により形成される。我々はこのことを踏まえて、岐阜県東濃地域の花崗岩中の地下水を対象として、表層水の水質と岩盤の鉱物組合せに基づいた熱力学解析による地下水の水質(主にpH)推定手法を構築し、さらに当該地域における地下水のpHの長期的な変動幅を推測してきた。この手法を一般化し汎用的手法とするためには、花崗岩以外の火山岩、石灰岩、堆積岩といった他の岩種に対する適用性についても確認しておく必要がある。本研究では、まず鉱物組合せが比較的単純な石灰岩中の地下水を対象として、本手法の適用性を検討した。

方法
一般公開されている日本全国の石灰岩地域に分布する地下水の水質データから、採水深度が明確で品質が保証されている(他の深度からの地下水が混合していない)データを抽出して解析対象とした。まず、地下水の飽和指数を地球化学計算コードPHREEQC(熱力学DB:PHREEQC.dat)によって計算し、地下水に対して理論的に飽和状態となる鉱物(aragonite, calcite, chalcedony, dolomite, illite, quartz)を選出した。次に、表層水(河川水)に対して理論的に飽和状態となる鉱物(chalcedony, quartz)を選出し、これらは表層水の地下への浸透時に水-鉱物反応に関与しないものとして解析では考慮しないこととした。残りのaragonite, calcite, dolomite, illiteのうち、実際の岩盤に含まれているcalciteが地下水の水質形成に寄与していると考え、PHREEQCを用いて表層水とcalciteが反応した際に形成される水質を計算した。その結果と、全国各地の石灰岩地域の河川水や洞内水を含む浅層・深層地下水の水質実測値を比較した。

結果・考察
熱力学解析によって得られた計算水質はCa-HCO3型を示し、総溶存イオン濃度は約1 meq/L、pHは9.5であった。一方、実際の地下水のデータはCa-HCO3型を示すものの、溶存イオン濃度が高く(約5 meq/L)、pHが低い(8.0)という特徴があった。この差の原因として、計算では地下での二酸化炭素の供給を考慮していないことが考えられた。calciteの溶解度は、二酸化炭素が供給されない閉鎖系では極端に低下する(Langmuir, 1971)。また、石灰岩地域の多くは開放系である(吉村・井倉, 1992)。そこで計算時に、地下水が採水された深度と地下水面の差(30m=3気圧)を考慮して二酸化炭素分圧を見積もり(pCO2 = -2.90;350 ppm×3 = 1,050 ppm)再解析した結果、地下水のpHおよび水質は、ほぼ理論計算により再現可能であることが判った。また、河川水や洞内水は水圧を考慮できないため、二酸化炭素分圧(pCO2)を大気の-3.45(350 ppm)から土壌水の-3.00~-1.66(0.2~2.2%;吉村・井倉, 1998)に設定して解析した結果、実測データのpHや水質は、解析で得られた値の範囲におおむね収まることが明らかになった。

まとめ
石灰岩地域の地下水の水質は、二酸化炭素分圧を考慮したcalciteとの反応に基づいて概ね再現可能であった。このため、熱力学解析に用いる入力条件の変動幅を仮定することで、考案した手法を用いて水質の長期的な変動幅が想定可能であると考えられる。今後は、火山岩や堆積岩中の地下水水質の解析手法についても検討を行っていく予定である。

文献
Langmuir (1971) GCA, 35, 1023-1045. 吉村・井倉 (1992) 地下水学会誌, 34, 183-194.