日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] Eveningポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM02] Geomorphology

2018年5月23日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:八反地 剛(筑波大学生命環境系)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)、島津 弘(立正大学地球環境科学部地理学科)

[HGM02-P03] アナログ実験河川の下刻速度、河床勾配および流域面積

*今村 明弘1遠藤 徳孝1 (1.金沢大学)

キーワード:ストリームパワーモデル、実験地形、河川下刻、流域、隆起、岩盤河川

自然河川の縦断形は、概ね下に凸の形態をとる。つまり、河床勾配は上流が急で、下流が緩い。これに対する説明として、stream power modelがある。これは流れによる下方侵食の速度すなわち下刻速度を、(1)流量のプロキシである各場所の流域面積(上流側集水面積)と(2)河床勾配をそれぞれ変数とする2つのべき関数の積で表すものである。また、stream power modelに含まれるべき指数および係数は、岩質や気候などの条件に対して決まる定数と一般に考えられている。この関数と、山岳の存在を維持する隆起(造山運動)の速さを組み合わせて、河床の標高の時間変化を表す式が構成される。

 この考えを自然河川に適用する際、隆起速度は通常不明であるが、隆起と下刻が釣り合う平衡状態を仮定することが多い。この場合、河床勾配が流域面積のべき関数で表されるFlint則が得られる。自然河川の地形データに対してこのべき関数近似を行うことをsloe-area分析と呼ぶが、これによりstream power modelにおける流域面積のべき指数mと河床勾配のべき指数nの比、m/nが求まる。

 前述したように、隆起速度が不明であることが多いため、実用上その値を必要としない平衡状態を仮定するのが一般だが、山岳河川の多くは平衡状態にないという報告もある。流域が非平衡から平衡に至る過程でのstream power modelの適用妥当性は、隆起速度に加えて下刻速度も不明であることから自然地形に対して検証を行うのは難しい。

 本研究では、山岳河川をシミュレートした室内モデル実験のデータを用いて、stream power modelから得られる情報の意義や妥当性を時間発展の観点から検討することを目的とする。約90 cm×160 cmの実験水槽に、砂とクレイを混合した岩盤模擬材料を入れ、ミスト状の降雨をスプリンクラーから供給する。地形データは、一旦雨を止め写真測量により得た。隆起は、河口に設けた堰を下げベースレベルを低下させることで再現する。一様且つ一定の隆起速度(4.5 mm/h)に対して安定した流域地形が形成されたのち、一定の速い隆起速度(6.0 mm/h)を作用させ、再び地形が落ち着くまで約6時間実験をつづけた。

 地形の時系列データから得られた下刻速度、河床勾配、流域面積をstream power modelの関数に対して最小二乗法により求めたmとnの値は、時間的に一定ではなかった。最小二乗法で求めたmとnの値を用いたm/nは、平衡状態を暗黙に仮定しているslope-area分析から求まるm/nと異なるのは当然である。しかし、実験終了時の平衡状態でのm/nの値は比較的近いものだった。この類似は、mとnが時間的に一定でないのなら、必ずしも自明ではない。Slope-area分析における回帰曲線の相関係数は、平衡状態でも非平衡状態でもそれほど高くはなく、両者に大きな違いは見られない(つまり、相関係数で平衡・非平衡を判断することは困難である)。これは、主に河床勾配の値が大きくばらつくことが原因であると考えられる。この問題を回避するために、stream power modelの積分形式に相当するchi plot(カイ・プロット)が最近よく使われる。Chi plot(横軸-chi値、縦軸-標高)は、河川が平衡状態にあるとき直線となる。Chi plotにおいてもその計算にはm/nの値が必要で、その推定方法は発展途上である。仮に、slope-area分析で求まるm/nの値を用いると、非平衡状態の実験地形に対して比較的直線的なchi plotが得られる結果となったが、最小二乗法で求めたmとnから決まるm/nを用いるとchi plotは曲線であった。

 Steam power modelの式は局所的な作用のみを表しており、離れた場所の影響、例えば、河川網パターンの変化や流路の延長や短縮による河口からの距離の変化など広域な地形変化の影響は考えない。また、自然地形がstream power modelから外れる要因として谷幅(もしくは川幅)を考慮していないことが原因という指摘もある。今後さらなる研究が必要であるが、地質や気候その他の要因がすべて不変でも、侵食速度が流域面積と河床勾配の単純なべき関数の積ではない可能性がある。