[HGM03-P05] 相模川河床における河原の地形と礫の円磨度の関係
キーワード:河床、中礫、円磨度、相模川、台風21号、洗掘
河川を運搬される砕屑粒子は,その過程で破砕・摩耗を繰り返しながら運ばれていく.そのため全体的な傾向として,河床に分布する砕屑粒子は上流から下流に向かってより細粒の粒子が増え,また粒子表面の滑らかさを増減させつつも全体としてはより円磨された状態へ近づいていく.河川堆積物の粒度分布や円磨度を計測した例は数多いが,例えば河原では,砂礫堆や増水時の流路跡などの微小な地形によって,砕屑粒子の粒度は大きく異なる.どれだけの範囲の砕屑粒子を測定すれば,「その河原における代表的な粒度分布が得られるか」は極めて難しい問題である.
一方粒子の円磨度については,広く用いられている印象図による評価(例えば,Krumbein, 1941)は客観性に乏しく,再現性が保証されないなどの意見もあり,手法自体について検討すべき点は多い.しかしその一方で,ある河原において微小な地形の影響をさほど受けないのであれば,運搬過程の指標としてこれまで考えられているよりも有用ということになる.発表者らは近年,円磨度を運搬過程の指標としてもっと有効に利用できないか検討すべく,いくつかの作業を行っている.今回は2017年10月23日に関東地方を通過した台風21号により表面の砂礫分布が更新された,相模川河床における河原の地形と礫の円磨度の関係を検討した結果を紹介する.なお本発表の一部は,第3発表者の木村の卒業研究である.
相模川は,山梨県富士山麓を水源とし,丹沢山地の北縁を時計回りに流下し神奈川県中央部で相模湾に注ぐ.調査地点は相模川中流域の相模原市田名の河原であり,圏央道相模原愛川ICの橋のすぐ下流側にあたる.ここでは相模川の河道が緩やかに蛇行して南東方向へ流下しており,滑走斜面に相当する左岸(北東岸)で調査を行った.台風21号の増水時に圏央道の橋脚下流部では顕著な洗掘が発生したので,洗掘部分の礫の円磨度も評価するために,台風通過の約2週間後の11月8日に,相模川の水際水中から相模川の流れと直交する南西−北東方向にラインを設定し,微小な地形の高低ごと(数mおき)に1m四方の区画を置いて,区画ごとに50個の礫の円磨度を測定した.相模川は丹沢山地に広く分布する凝灰岩を礫として豊富に含んでおり,今回検討対象とする岩種はこの凝灰岩の礫である.また宇津川・白井(2016)などにより,砂礫の円磨度は岩種だけでなく礫径にも影響を受けるとの指摘を受けている.そのため本研究では河原全体で豊富に見られる長径32~64mmの中礫を対象とした.計測する礫は板上に静置して最大投影面を撮影し,Krumbein の円磨度印象図(Krumbein, 1941)を用いて円磨度を計測した.
各区画の円磨度の平均値を比較することによって,以下の推定を行った.
(1)河原の横断方向で凝灰岩の中礫の円磨度平均値は0.49~0.59の値をとった.
(2)円磨度が低い区画は,水際から離れた河原の高水敷部分と,洗掘部分の底から流路側の斜面にかけてであった.ともに一部が欠けた礫が比較的多く含まれており,強い水流を受けて破砕をしたと推定される.
(3)円磨度が高い区画は2ヶ所あり,一つは洗掘の高水敷側斜面に位置している.この斜面では高水敷部分から斜面を下るにつれて円磨度が増加しており,より円磨度が高く滑らかな礫がより運ばれたことを示している可能性がある.
(4)円磨度が高いもう一つの区画は水際の緩斜面上である.増水がほぼおさまり水流が弱まりながら運んだ礫が堆積したと推定される.
(5)12月22日に,水際の区画に隣接した区画で再測定を行ったところ,円磨度平均値は11月の緩斜面の測定値とほぼ同じ値となった.
以上より,印象図を用いて円磨度を評価する際には,高水敷や洗掘部分を避けて,通常の水位に近い水際の平坦面~緩斜面で測定を行うことにより,安定した値を得ることができると期待される.
引用文献
Krumbein, K. C. (1941) Journal of Sedimentary Petrology, 11: 64–72.
宇津川喬子・白井正明(2016)地理学評論,89: 329–346.
一方粒子の円磨度については,広く用いられている印象図による評価(例えば,Krumbein, 1941)は客観性に乏しく,再現性が保証されないなどの意見もあり,手法自体について検討すべき点は多い.しかしその一方で,ある河原において微小な地形の影響をさほど受けないのであれば,運搬過程の指標としてこれまで考えられているよりも有用ということになる.発表者らは近年,円磨度を運搬過程の指標としてもっと有効に利用できないか検討すべく,いくつかの作業を行っている.今回は2017年10月23日に関東地方を通過した台風21号により表面の砂礫分布が更新された,相模川河床における河原の地形と礫の円磨度の関係を検討した結果を紹介する.なお本発表の一部は,第3発表者の木村の卒業研究である.
相模川は,山梨県富士山麓を水源とし,丹沢山地の北縁を時計回りに流下し神奈川県中央部で相模湾に注ぐ.調査地点は相模川中流域の相模原市田名の河原であり,圏央道相模原愛川ICの橋のすぐ下流側にあたる.ここでは相模川の河道が緩やかに蛇行して南東方向へ流下しており,滑走斜面に相当する左岸(北東岸)で調査を行った.台風21号の増水時に圏央道の橋脚下流部では顕著な洗掘が発生したので,洗掘部分の礫の円磨度も評価するために,台風通過の約2週間後の11月8日に,相模川の水際水中から相模川の流れと直交する南西−北東方向にラインを設定し,微小な地形の高低ごと(数mおき)に1m四方の区画を置いて,区画ごとに50個の礫の円磨度を測定した.相模川は丹沢山地に広く分布する凝灰岩を礫として豊富に含んでおり,今回検討対象とする岩種はこの凝灰岩の礫である.また宇津川・白井(2016)などにより,砂礫の円磨度は岩種だけでなく礫径にも影響を受けるとの指摘を受けている.そのため本研究では河原全体で豊富に見られる長径32~64mmの中礫を対象とした.計測する礫は板上に静置して最大投影面を撮影し,Krumbein の円磨度印象図(Krumbein, 1941)を用いて円磨度を計測した.
各区画の円磨度の平均値を比較することによって,以下の推定を行った.
(1)河原の横断方向で凝灰岩の中礫の円磨度平均値は0.49~0.59の値をとった.
(2)円磨度が低い区画は,水際から離れた河原の高水敷部分と,洗掘部分の底から流路側の斜面にかけてであった.ともに一部が欠けた礫が比較的多く含まれており,強い水流を受けて破砕をしたと推定される.
(3)円磨度が高い区画は2ヶ所あり,一つは洗掘の高水敷側斜面に位置している.この斜面では高水敷部分から斜面を下るにつれて円磨度が増加しており,より円磨度が高く滑らかな礫がより運ばれたことを示している可能性がある.
(4)円磨度が高いもう一つの区画は水際の緩斜面上である.増水がほぼおさまり水流が弱まりながら運んだ礫が堆積したと推定される.
(5)12月22日に,水際の区画に隣接した区画で再測定を行ったところ,円磨度平均値は11月の緩斜面の測定値とほぼ同じ値となった.
以上より,印象図を用いて円磨度を評価する際には,高水敷や洗掘部分を避けて,通常の水位に近い水際の平坦面~緩斜面で測定を行うことにより,安定した値を得ることができると期待される.
引用文献
Krumbein, K. C. (1941) Journal of Sedimentary Petrology, 11: 64–72.
宇津川喬子・白井正明(2016)地理学評論,89: 329–346.