[HGM03-P06] 多摩川中流域の河川敷で増水後に観察された微小な地形と堆積する礫の円磨度の傾向
キーワード:礫、円磨度、砂礫堆、多摩川、平成29年台風21号
河川に堆積する砂礫は,運搬される過程で破砕や摩耗を受ける,すなわち角張ったり丸みを帯びたりしながら最終的に「円磨」される.こうした砂礫の形状,特に輪郭の滑らかさを評価する「円磨度」は,砂礫の堆積環境や運搬-堆積過程などを示す指標として,長年様々な研究で用いられてきた.一般的に,河川環境において,相対的に細かい粒子は粗い粒子に比べて低い円磨度を示す(より角張る)傾向が知られている.その要因には,粗い粒子より耐久性があること(Kodama1994)や運搬中の粒子同士の衝突しにくさ,また,粒子が破壊されることで新しく生産された,すなわち角張った粒子の供給(宇津川・白井2017)があげられる.
ところで,あるひとつの河原でも砂礫堆や増水時の流路跡などの微小な地形によって,砂礫の粒径が大きく異なることはよく知られている(鈴木2015).一方,こうした微小な地形による砂礫の形状(円磨度)の違いについては未だ十分な検討がなされているとは言い難い.
本発表では,2017年10月23日に関東地方を通過した台風21号による増水で更新された多摩川中流域の河原を対象に,増水によって形成された微小な地形と堆積する礫の円磨度の傾向を報告した上で,白井ほか(2018)が検討する「ある河原における代表的な円磨度」についても考察する.なお,円磨度は岩種と粒径に依存すると考えられることから(宇津川・白井2017),調査は単一の岩種で二粒径を対象に行なった.
山梨県笠取山を源流とする多摩川は,東京都青梅市で関東平野に流入し,多摩丘陵と武蔵野台地の間を東南方向に流下して東京湾に注ぐ.全長は138 kmである.青梅より西部の山地にはジュラ紀~白亜紀に付加した砕屑岩とチャートが広く分布しており,多摩川の河原には砂岩が最も多く堆積している.
調査は河口から55 km上流の東京都羽村市に広がる多摩川の2つの河原で行なった.2地点間は約600 m離れている.上流側の河原(左岸側)の対岸には,250万年前に堆積した多摩川起源の礫層からなる草花丘陵がそびえるが,護岸工事によって,丘陵からの礫の供給量は,上流から運搬された礫と比べて極めて少ないといえる.また,下流側の河原(右岸側)は,羽村取水堰の直上にあたる.台風21号が通過した3日後に,まず河原の微小な地形と堆積する礫の粒径を把握した上で,多摩川の水際から川の流下方向と直交する向きに,上流側地点では約60 m,下流側地点では約20 mのラインを設定した.ライン上で,微小な地形の特徴と礫の粒径が変化する地点を複数選出し,1 m四方の区画内で無作為に抽出した50~55個の大礫(径64~128 mm)および中礫(径16~32 mm)の砂岩の3軸と円磨度を調べた.円磨度は粒子の最大投影面に対してKrumbein(1941)の円磨度印象図を用いて肉眼で測定した.
上流側の河原では,多摩川の流れに並行するように発達した高位面(高水敷)と低位面の2段に区分された.高位面から低位面にかけた緩斜面には,増水時に形成されたとみられる長さ4~5 m,幅0.5 mの2Dデューン状の砂礫堆(ほぼ中礫で構成)が約1 m間隔で複数観察され,増水後の流速がやや緩やかになった頃の多摩川の流れ,すなわち高位面から低位面にかけて砂礫堆の間を抜けていく水の流れが推測された.下流側の河原は水際から続く平坦面のみであった.
平均円磨度は,大礫で0.54~0.60,中礫で0.52~0.57の値をとった.上流側,下流側の河原に共通して,通常の水位により近い水際の平坦面~緩斜面で円磨度を比較した結果,中礫(0.52~0.53)よりも大礫(0.58)の方がより丸みを帯びる傾向が得られた.一方,高位面(高水敷)や砂礫堆および緩斜面と平坦面の境界に堆積する礫は,大礫と中礫の円磨度に大きな差が見られなかった.こうした河原の箇所は,増水時の水深が本流よりも浅く,また通常時よりも流速が速いため,より激しく水流の影響を受けることで礫同士の衝突が著しいと考えられ,水際の礫とは異なる破砕・摩耗作用を受けた可能性が示唆された.これらの結果を踏まえ,円磨度の測定は,通常の水位に近い水際の平坦面で行なうことで河原の代表的な値を得られると推察される.これは相模川中流域で同様の調査を行なった白井ほか(2018)の見解と一致する.
引用文献
宇津川喬子・白井正明2017.日本堆積学会2017年松本大会講演要旨集:11–12.
白井正明・宇津川喬子・木村洋太郎2018.日本地球惑星連合大会要旨.
鈴木一久2015.堆積学研究74:113–122.
Kodama, Y. 1994. Jour. Sed. Res. A64: 76–85.
Krumbein, K. C. 1941. Jour. Sed. Pet. 11: 64–72.
ところで,あるひとつの河原でも砂礫堆や増水時の流路跡などの微小な地形によって,砂礫の粒径が大きく異なることはよく知られている(鈴木2015).一方,こうした微小な地形による砂礫の形状(円磨度)の違いについては未だ十分な検討がなされているとは言い難い.
本発表では,2017年10月23日に関東地方を通過した台風21号による増水で更新された多摩川中流域の河原を対象に,増水によって形成された微小な地形と堆積する礫の円磨度の傾向を報告した上で,白井ほか(2018)が検討する「ある河原における代表的な円磨度」についても考察する.なお,円磨度は岩種と粒径に依存すると考えられることから(宇津川・白井2017),調査は単一の岩種で二粒径を対象に行なった.
山梨県笠取山を源流とする多摩川は,東京都青梅市で関東平野に流入し,多摩丘陵と武蔵野台地の間を東南方向に流下して東京湾に注ぐ.全長は138 kmである.青梅より西部の山地にはジュラ紀~白亜紀に付加した砕屑岩とチャートが広く分布しており,多摩川の河原には砂岩が最も多く堆積している.
調査は河口から55 km上流の東京都羽村市に広がる多摩川の2つの河原で行なった.2地点間は約600 m離れている.上流側の河原(左岸側)の対岸には,250万年前に堆積した多摩川起源の礫層からなる草花丘陵がそびえるが,護岸工事によって,丘陵からの礫の供給量は,上流から運搬された礫と比べて極めて少ないといえる.また,下流側の河原(右岸側)は,羽村取水堰の直上にあたる.台風21号が通過した3日後に,まず河原の微小な地形と堆積する礫の粒径を把握した上で,多摩川の水際から川の流下方向と直交する向きに,上流側地点では約60 m,下流側地点では約20 mのラインを設定した.ライン上で,微小な地形の特徴と礫の粒径が変化する地点を複数選出し,1 m四方の区画内で無作為に抽出した50~55個の大礫(径64~128 mm)および中礫(径16~32 mm)の砂岩の3軸と円磨度を調べた.円磨度は粒子の最大投影面に対してKrumbein(1941)の円磨度印象図を用いて肉眼で測定した.
上流側の河原では,多摩川の流れに並行するように発達した高位面(高水敷)と低位面の2段に区分された.高位面から低位面にかけた緩斜面には,増水時に形成されたとみられる長さ4~5 m,幅0.5 mの2Dデューン状の砂礫堆(ほぼ中礫で構成)が約1 m間隔で複数観察され,増水後の流速がやや緩やかになった頃の多摩川の流れ,すなわち高位面から低位面にかけて砂礫堆の間を抜けていく水の流れが推測された.下流側の河原は水際から続く平坦面のみであった.
平均円磨度は,大礫で0.54~0.60,中礫で0.52~0.57の値をとった.上流側,下流側の河原に共通して,通常の水位により近い水際の平坦面~緩斜面で円磨度を比較した結果,中礫(0.52~0.53)よりも大礫(0.58)の方がより丸みを帯びる傾向が得られた.一方,高位面(高水敷)や砂礫堆および緩斜面と平坦面の境界に堆積する礫は,大礫と中礫の円磨度に大きな差が見られなかった.こうした河原の箇所は,増水時の水深が本流よりも浅く,また通常時よりも流速が速いため,より激しく水流の影響を受けることで礫同士の衝突が著しいと考えられ,水際の礫とは異なる破砕・摩耗作用を受けた可能性が示唆された.これらの結果を踏まえ,円磨度の測定は,通常の水位に近い水際の平坦面で行なうことで河原の代表的な値を得られると推察される.これは相模川中流域で同様の調査を行なった白井ほか(2018)の見解と一致する.
引用文献
宇津川喬子・白井正明2017.日本堆積学会2017年松本大会講演要旨集:11–12.
白井正明・宇津川喬子・木村洋太郎2018.日本地球惑星連合大会要旨.
鈴木一久2015.堆積学研究74:113–122.
Kodama, Y. 1994. Jour. Sed. Res. A64: 76–85.
Krumbein, K. C. 1941. Jour. Sed. Pet. 11: 64–72.