日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM03] 地形

2018年5月23日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:八反地 剛(筑波大学生命環境系)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)、島津 弘(立正大学地球環境科学部地理学科)

[HGM03-P08] 島根半島沿岸の波食棚の分布状況とその形成要因について

*隼田 啓志1田中 雅章1中村 克1清水 雄一1宮本 新平2新長 修二2後藤 憲央3 (1.中国電力株式会社、2.中電技術コンサルタント株式会社、3.株式会社阪神コンサルタンツ)

キーワード:島根半島、須々海海岸、波食棚、空中写真判読、数値表層モデル

【概要】
島根半島は,島根県の北東に位置し,出雲市大社の日御碕から松江市美保関の地蔵崎に至る東西約65km,南北約5~20kmの細長い半島である。島根半島は,新第三系中新統により構成され,中期~後期中新世頃の南北圧縮応力場において顕著な地殻変動を受けたとされている(伊藤・荒戸(1999)等)。
日本海に面する島根半島沿岸(以下,島根半島北岸)は,主に岩石海岸からなり,潮間帯やそれよりも高い位置に形成された波食棚(以下,ベンチ)が見られる。一般的には,潮間帯よりも上位に発達するベンチは,荒天時の波浪による侵食,海水準変動あるいは地殻変動により生じたものと考えられる。
本研究では,島根半島北岸のベンチの形成要因を明らかにすることを目的として,空中写真判読により海岸地形の分類を行い,ベンチ等の地形の抽出を行った。また,航空レーザー測量により作成した2mDEMならびに国土地理院が公開している基盤地図情報の航空レーザー測量および空中写真測量による5mDEMを用いてベンチの高度分布図を作成した。
【ベンチの分布状況】
空中写真判読の結果,ベンチは,「潮間帯ベンチ」及び「潮間帯より上位に発達するベンチ」(以下,上位ベンチ)に区分され,平面的な分布については数10kmスケールあるいは数kmスケールでみると,発達程度の偏りが認められた。断片的に分布するベンチの幅は,数m~数十m程度のものが大半であった。また,上位ベンチは,標高2.5m以下の多様な高度で平坦面が形成され,定高性や系統的な高度変化などの規則性は認められなかった。
上位ベンチの形成要因について,既存の沿岸域の地質構造調査や長期的地殻変動の傾向から,地震性地殻変動の可能性について検討した。島根半島北岸沿岸域で実施されたマルチチャンネル音波探査の結果によると,後期更新世以降に沿岸域を隆起させるような運動様式の断層は認められていない。また,当該地域の地殻運動は,段丘面の分布状況等から,後期更新世には安定または若干の沈降傾向であるとされている(小池・町田編(2001),藤原ほか(2005)等)。以上のことから,島根半島北岸の上位ベンチは,少なくとも地震性地殻変動に伴う隆起により形成されたとは考えがたい。
【ベンチの形成要因】
上位ベンチの形成要因を地質学的観点から検討するため,比較的広いベンチを形成する地点においてUAV(無人航空機)を用いた空中写真測量によりDSM(数値表層モデル)およびオルソ画像を取得し,高精度のオルソ等高線図を作成した。また,岩種・岩相の確認等を行う地表地質踏査を合わせて実施した。
ここでは,松江市島根町須々海海岸の事例を紹介する。須々海海岸周辺の地質は,新第三紀の牛切層とこれを貫く貫入岩からなり,牛切層は,砂岩・泥岩の互層が主体である。(1)湾入部東側:ベンチには貫入岩が分布し,湾奥部や湾西側と比べて全般に分布高度が大きい傾向がある。特に,岬の先端では,標高1.5~2.2m程度で起伏に富み平坦性に乏しく,全体的には海側に傾斜している。(2)湾奥部:海岸線には,礫浜が連続し海食崖は形成されていないが,ベンチが広範囲に発達している。ベンチは洗濯板状を呈し,泥岩部は海面下に水没し,硬質な砂岩部は海面から突出したやや高い平坦面が形成されている。(3)湾西部岬:ベンチは砂岩・泥岩互層からなり,湾奥部と同様に洗濯板状を呈しているが,砂岩が卓越するほどベンチの高度が大きく幅広く沖合まで突出して形成されている。
以上のことから,島根半島北岸に様々な高度で発達するベンチは,岩種・岩相の侵食抵抗差を反映して形成されたと考えられる。