日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-SC 社会地球科学・社会都市システム

[H-SC05] 地球温暖化防止と地学(CO2地中貯留・有効利用、地球工学)

2018年5月23日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:徂徠 正夫(国立研究開発法人産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)、薛 自求(公益財団法人 地球環境産業技術研究機構)、愛知 正温(東京大学大学院新領域創成科学研究科)

[HSC05-P04] CCUS技術における軟岩のき裂浸透モデリングに関する研究

*藤井 孝志1雷 興林1 (1.国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

キーワード:軟岩、き裂の浸透率、モデリング

現在、世界各国の帯水層、油田・ガス田、ならびに炭層を対象に、Carbon dioxide utilized storage(CCUS)技術に関連した大規模実証試験が行われている。これらの貯留サイトは、世界中の陸上や沖合へと偏在することがわかっている。サイトを構成するキャップロックや貯留岩の特徴は、各地域の地層形成の違いにより大きく異なっている。たとえば、キャップロックは、主に泥岩や頁岩であるが、それらの形成された地質環境の違いで、鉱物の変成度が異なる。つまり、硬度が異なるキャップロックや貯留岩が存在することが予想される。一般的に、岩石中には、元来、き裂や微小断層(き裂が進展した形態)が存在する。キャップロック中におけるき裂や微小断層の存在は、CO2貯留に対してCO2漏洩の一つの要因となりうるものと推測できる。また、地中へのCO2圧入過程では、圧入に伴い地中の応力状態が変化し、かつ有効応力が低下することが予測できる。それにともない、貯留岩が膨張し、その周囲のキャップロックに変形が生じる。結果として、岩石中の既存のき裂や微小断層がさらに進展し、CO2の漏洩リスクが高まる可能性が示唆される。

しかしながら、現在までの物理探査技術では、そのような微小なき裂や断層を検知することが不可能である。そのため、あらかじめ、貯留層とその周辺の岩盤中のき裂と水理特性の関係を十分に調べることが必要不可欠であり、そのことが、より安全なCO2地中貯留の技術開発につながるといえる。これに関連して、これまでに流動とジオメカニクスの連成解析に必要なき裂の浸透モデリングは、多孔質なコア、一枚き裂の入ったコア、ならびにき裂が卓越したコアを用いた透水実験に基づきモデリングされてきた。しかしながら、これらの実験データは、き裂そのもののモデル化には適用可能であるが、実際のCCS圧入現場で想定される圧入に伴う岩石の変形と浸透率変化の関係に当てはめることは難しいことがわかっている。現在までに、変形、破壊、ならびにすべりの一連の浸透率を調べた研究は、未だに数件程度であり、精緻なき裂の浸透モデリングにはより多くの実験データを必要としているのが現状である。
以上の知見を踏まえて、本研究では、CCS技術、CO2EOR技術、ECBM技術で対象とされる変成度の異なるキャップロックや貯留岩を用いて、変形・破壊・すべり挙動(き裂の進展、および微小断層を想定)が軟岩の水理特性に及ぼす影響を調べる。加えて、それらの結果に基づき、流動とジオメカニクスの連成解析に必要な軟岩の変形・すべり過程に伴う浸透率の変化について定式化することを目的とする。

その結果、用いた岩石ごとでせん断、すべり、緩和のそれぞれの過程に違いがみられたが、間隙圧一定の条件の間は、すべての岩石においてせん断後の浸透率が減少することがわかった。また、CO2圧入を想定した有効圧増減過程では、硬い泥岩サンプルほど、有効圧低下に伴う浸透率変化のタイミングが遅くなる傾向がみられた。さらに、き裂発生に伴う浸透率の変化については、既往の研究ではき裂発生の前後で適用される式が異なるが、実験データに基づいたフィッティングの結果も同様の傾向を示した。とくに、き裂発生前の浸透率変化の近似式はこれまでと同様の体積ひずみとダイラタンシーの関係で説明できることがわかった。