日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT19] 浅部物理探査が目指す新しい展開

2018年5月24日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:尾西 恭亮(国立研究開発法人土木研究所)、青池 邦夫(応用地質株式会社)、井上 敬資(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構、共同)、横田 俊之(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

[HTT19-P04] 2点アレイによる位相速度計測法の基礎的検討

*白石 英孝1 (1.埼玉県環境科学国際センター研究推進室)

キーワード:微動探査法、位相速度、S波速度構造、複素コヒーレンス関数

地震被害想定を行う際の地表振動の推定にはS波速度構造が必須であり、これを推定する方法のひとつとして微動アレイ探査が活用されている。アレイ探査による位相速度の計測にはSPAC法などが用いられてきたが、浅層部の構造推定には極小アレイやチェーンアレイなども用いられ、2次元断面の構造推定などにも活用されている。さらに近年では、より簡便なリニアアレイについての検討も進められている。
本研究はこのリニアアレイの構成要素である2点アレイを対象に、いわゆる複素コヒーレンス関数(Complex Coherence Function:CCF,Shiraishi et al., 2006)を用いた検討を行い、2点アレイによる位相速度計測の基本的な特性を明らかにすることを目的とした。なお、CCFの時間領域表現は地震波干渉法の特徴的な挙動も表現できるため(白石・浅沼, 2007)、地震波干渉法の理解にも役立つ可能性がある。
周知のようにCCFの実部は、地盤特性を表す項と震源に依存する項で構成されている。SPAC法では、正三角形アレイで得られる空間的な位相差をもった複数のCCFを方位平均して震源依存項を抑制し、地盤特性を抽出する(白石・松岡, 2005)。また、筆者らが提案した直接同定法(白石・浅沼, 2009)では、複数のCCFを連立させて残差を最小とする位相速度等を求め、地盤特性及び震源依存項を同時に推定する。いずれにせよ、何らかの方法でCCFに含まれる地盤特性の項を抽出できれば、位相速度の決定が可能である。しかし、単独の2点アレイだけでは方位平均や連立による操作で震源依存項を抑制することはできず、別の方法で地盤特性を抽出しなければならない。
本研究では、数値実験により観測値に相当するCCFとの残差を極小とするパラメータ(位相速度、震源方位角等)をグリッドサーチによって決定し、位相速度を推定することとした。この結果によれば、観測値との残差を極小とする位相速度は震源方位角に応じて複数存在し、その中には正解値が含まれているものの、震源方位角が決定できないため位相速度の特定は困難と考えられた。ただし、震源方位角が他の方法によって明らかにされている場合には、2点アレイだけで位相速度の推定が可能である。また、解として得られる複数の位相速度分散曲線の速度差は震源方位角に依存し、震源方位角が90°(垂直入射)に近いほど速度差が大きくなる傾向がみられた。この傾向を利用すれば、震源方位角の大まかな範囲を推定してその範囲内の位相速度分散曲線を平均することで、位相速度の近似値を決定できる可能性があると考えられた。
今回の検討結果によれば、正確なS波速度構造を決定するには、リニアアレイだけでは難しく、何点かおきに空間的な位相差をもつ補助観測点を設け、位相速度を決定する必要がある。これは、例えばリニアアレイにL次型アレイを併用することで実現が可能であると考えられる。ただし、正確なL字型アレイに限定する必要はなく、アレイの観測点と補助観測点で構成される多角形から直接同定法などの方法を援用して位相速度を決定すればよい。