日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI25] 山岳地域の自然環境変動

2018年5月22日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科、共同)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)

[MGI25-P06] 砂粒子を用いた氷河堆積物・崩壊堆積物の判別可能性の検討―スイスと日本の山岳地の事例―

布施 智瑛1、*池田 敦2 (1.筑波大学大学院教育研究科、2.筑波大学生命環境系)

キーワード:氷河、大規模崩壊、粒度組成、フラクタル次元、楕円フーリエ主成分分析

これまで日本アルプスの主稜線付近には,最終氷期の氷河地形が数多く認定されてきた。しかし2000年以降,それらの堆積物の詳細な記載と年代測定によって,各地で大規模崩壊や地すべりの地形が誤認されていたと指摘されている。いずれの解釈が正しいにせよ,より定量的かつ一義的に古い堆積物の起源を特定できれば画期的であろうと思われる。2013年に,石英砂の粒子形状を数学的に解析する新手法で,その砂の堆積場が前浜,河道,氷河縁のいずれかを特定できるという報告があった。ただし,その新手法の適用対象は限られており,とくに氷河底と氷河上という異なる運搬経路があることを考慮せずに,氷河の堆積物を一括してよいか検討されていなかった。そこで本研究では,主にその新手法によって,氷河底ティルと氷河縁辺ティルの粒子形状に差があるかどうかを検証し,さらに氷河堆積物と崩壊堆積物の判別が可能か検討する。
 解析に用いた土砂は,スイスアルプスの氷河堆積物(2流域,12地点)と日本アルプスの大規模崩壊堆積物(1流域,3地点)から採取した。全ての流域が花崗岩と花崗閃緑岩からなるが,スイスアルプスのうち1流域は変成岩を含む。現地では同時に堆積構造と周辺の地形を記載した。持ち帰った試料をまず粒度分析にかけ,粒径2 mm以下の試料に含まれる63 µm以下の粒子の割合(泥割合)を求めた。そののち,0.5~1 mmの石英砂粒子を抽出し,光学顕微鏡で粒子画像を撮影し,フラクタル次元解析と楕円フーリエ主成分分析を行った。
 氷河底ティルの泥割合は24~37%であり,氷河縁辺ティルや崩壊堆積物の泥割合(9~23%)よりも高かった。また,氷河縁辺ティルにも泥割合が高いものがあり,それらには氷河底ティルの混在が現地観察より疑われた。粒子表面の凹凸を示すフラクタル次元は,氷河底ティルと氷河縁辺ティルの値に差がみられなかった。一方で氷河の2流域間ではフラクタル次元の平均値の信頼区間に重複がほとんどなく,差があると言えた。この差は,流域内の変成岩の有無を反映したのかもしれない。花崗岩・花崗閃緑岩のみからなる流域で比べると,氷河堆積物の方が崩壊堆積物より,砂の表面が平滑であるという傾向が見られた。楕円フーリエ主成分の第1主成分から第3主成分までの寄与率は,順に43%,18%,16%であった。第1主成分は粒子の真円―楕円を示す指標値であり,第2,第3主成分はそれぞれ突起の大小を示す指標値であった。いずれの指標値においても,流域による差,氷河底ティルと氷河縁辺ティルによる差,氷河堆積物と崩壊堆積物による差のいずれも認められなかった。以上から,氷河底ティルと崩壊堆積物は,泥割合を比べれば判別が可能であると示唆された。また,地質が同一の流域内に限定すれば,フラクタル次元を用いて氷河堆積物と崩壊堆積物を判別できる可能性はあった。今後,粒子形状の解析事例を増やして,さらに検討するのが望ましいと考えられた。