日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI25] 山岳地域の自然環境変動

2018年5月22日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科、共同)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)

[MGI25-P08] 赤石山地ドンドコ沢岩石なだれが形成したせき止め湖沼堆積物トレンチ調査と酸素同位体比年輪年代による崩壊履歴の高精度復元

*山田 隆二1苅谷 愛彦2井上 公夫3木村 誇1佐野 雅規4李 貞5對馬 あかね5中塚 武5 (1.国立研究開発法人 防災科学技術研究所、2.専修大学、3.砂防フロンティア整備推進機構、4.早稲田大学、5.総合地球環境学研究所)

キーワード:赤石山地、岩石なだれ、せき止め湖、酸素同位体比年輪年代、高精度履歴解析

主に考古学で使われる年輪年代学は,気温や降水量など気候の経年変動を反映して樹木の個体間で年輪が同調することを原理とし,木材や樹幹の年輪に見られる特徴的パターンを用いてイベントの年代や環境の変化を求める.近年,年輪幅の代わりに年輪から抽出したセルロースの酸素同位体比を変化の指標とすることで,年輪年代学の適用範囲が飛躍的に広がった.どちらも基本的には,年代既知の試料から作成した標準変動曲線と未知試料を比較する.そのため,年代既知の試料が入手できる年代範囲(現状の日本では約3000年)で適用可能である.当初用いられた年輪幅の変化は,主に樹種ごとに気候変化への応答が異なることから,標準変動曲線を樹種の違いを超えて適用することが困難であったが,年輪セルロースの酸素同位体比は,気象因子(成長期の降水同位体比と相対湿度)のみを反映するため,変動は樹種の違いを越えて高い相同性を示し,さらに年単位(細かくスライスすれば季節単位も可能)の古気候復元に使えるという優位点がある.

赤石山地ドンドコ沢岩石なだれが形成したせき止め湖沼(苅谷, 2012)の湖沼堆積物中には非常に多くの植物遺体が見られる.Yamada et al. (2018)は,酸素同位体比年輪年代法を用いて,2箇所のせき止め湖からほぼ完全な状態で掘削採取できた埋没樹幹(樹齢約350年と約300年)の枯死年代を測定した結果,AD885以降数年以内あるいはAD888年という年代値を得た.続日本紀などの古文書記録と比較し,岩石なだれは駿河および南海トラフ付近を震源とする巨大海溝型地震である仁和(五幾七道)地震があったAD887年かその数年後以内に発生したことが明らかになりつつある.ドンドコ沢付近には,糸魚川静岡構造線の南部域セグメントに属するいくつかの活断層が存在しており,そのうちのどれかが仁和地震によって誘発された未知の活動が岩屑なだれの誘因であった可能性もある.

 2016年8月にドンドコ沢せき止め湖沼堆積物中で追加のトレンチ調査を行い,複数本の樹幹試料を採取することができた.採取時に樹皮が剥離し,試料の状態は完全ではないため枯死年を確定することはできなかったが,ほとんどの試料について,残っている最外年輪に対してAD830-880頃の値が得られ(枯死年代はこの値より古い),従来のイベント推定とは矛盾のない結果が得られた.本発表ではトレンチ調査の概要および年輪年代測定の詳細を報告する.

文献: 苅谷 (2012) 地形33,297-313; Yamada et al. (2018) Quaternary Geochronology 44, 47-54.