日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI25] 山岳地域の自然環境変動

2018年5月22日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科、共同)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)

[MGI25-P10] 巨摩山地・甘利山および千頭星山における第四紀末期の地すべり地形発達史

*小塚 朋子1苅谷 愛彦2 (1.専修大学・学部生、2.専修大学)

キーワード:御岳第1テフラ、線状凹地、湖成層、岩盤の重力変形

甘利山(標高1740 m)や千頭星山(2139 m)[以下,両者をあわせて甘利山山塊とする]は,甲府盆地西方に存在する赤石山脈の前衛山地である.甘利山山塊には地すべり地や重力性の線状凹地が卓越する.本研究では,甘利山山塊における地すべり地と線状凹地の分布と形成年代を調査した.その結果,調査地域で57ヵ所の地すべり地が確認され,それらの多くは甘利山山塊の東向き斜面に発達し,約60%の地すべり移動体が北東~南東の範囲へ移動していることが判明した.また線状凹地は甘利山と千頭星山の山頂一帯に発達することが明らかとなった.本発表では以上の成果に加え,典型的な地すべり地と線状凹地の事例を解説する.本要旨では4例を記述する.【桐沢地すべり地】移動体体積が約1000万 m3の大規模地すべり地である.移動体南縁では地すべり堆積物が不動基盤岩を覆い,地すべり堆積物の上位に湖成層が載る.湖成層の上限付近に御岳第1テフラ(On-Pm1,100 ka)が介在し,On-Pm1から地表にかけて粗粒な礫層が堆積する.以上から,次の地形発達シナリオが構築できる:(1)同地では100 ka以前に大規模地すべりが生じた.(2)移動体上の凹地,または移動体と不動谷壁との間に水域が生じた.(3)水域は約100 ka以降,土砂供給のために埋積された.【堅沢地すべり地】移動体体積が約570万m3の大規模地すべり地である.主移動体上の凹地の1つを掘削し,118~120 cm深の腐植土から6184~6000 cal BP(2σ)を得た.この地すべりの初生活動は完新世中期以前に遡ると考えられる.【御庵沢地すべり地】甘利山南面に分布する主移動体(Ga)体積が約1200万m3の大規模地すべり地である.先行研究で約7700 cal BPに主移動体が御庵沢を堰き止め,湖沼が生じたことが知られていた.演者らは別の堰き止め湖成層を新たに発見し,同層中の木片2点から8335~8185 cal BPと8196~8037 cal BPを得た.堰き止め湖は8300~8000 cal BP頃には存在していたらしい.さらに,主移動体に接する別の地すべり移動体(Gb;移動体体積=約150万m3)内から木片(5900~5739 cal BP)を得たことにより,主地すべりの発生から約2000年後に別の地すべりが隣地で発生したことが明らかとなった.【甘利山南・線状凹地】御庵沢地すべり地の上方に発達する長さ1.8 kmの線状凹地列のうち1地点(通称「鮒窪」)で掘削を行い,105 cm深から炭化木片(5899~5739 cal BP)を採取した.この線状凹地列の一部は完新世中期以前に形成されていたことが判明した.【まとめ】甘利山では大規模地すべりやそれに関連した重力変形地形である線状凹地が105~103年(更新世後期~完新世)スケールの時間内で生じてきた.それらは山地の解体や景観形成において重要な働きをしてきたと推定される.