日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI28] 計算科学による惑星形成・進化・環境変動研究の新展開

2018年5月23日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:林 祥介(神戸大学・大学院理学研究科 惑星学専攻/惑星科学研究センター(CPS))、小河 正基(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、井田 茂(東京工業大学地球生命研究所、共同)、草野 完也(名古屋大学宇宙地球環境研究所)

[MGI28-P05] 火星大気循環の全球・高解像度・非静力学計算に向けたモデル開発

*樫村 博基1八代 尚2西澤 誠也2富田 浩文2中島 健介3石渡 正樹4高橋 芳幸1林 祥介1 (1.神戸大学/惑星科学研究センター、2.理化学研究所計算科学研究機構、3.九州大学、4.北海道大学)

キーワード:火星大気、モデル開発、全球非静力学モデル、高解像度

地球大気の運動は数メートル規模から惑星規模に至るまで幅広く、様々な規模の現象が相互作用している。このことが、より高解像度の大気シミュレーションが求められる理由の1つである。こうした状況は、火星をはじめとした他の惑星でも同様なはずである。火星では数十から数百メートル規模のダストデビル(塵旋風)から、数十キロメートル規模のローカルダストストーム、全球を覆うグローバルダストストームまで、大小様々な規模の砂嵐が観測されているが、これらのスケール間の相互作用は未解明である。また、大気が薄く海がない火星では、昼夜間の寒暖差が大きく、鉛直対流が卓越すると考えられるが、全球規模の大気大循環に対するその役割は解明されていない。

これらの謎に挑むためには、水平数キロメートル解像度の高解像度全球大気計算が求められる。また鉛直対流を陽に表現するために、静力学平衡を仮定しない、非静力学の方程式系で計算する必要がある。

そこで我々は、ポスト「京」で上述の高解像度計算の実現を目指し、大規模並列計算に適した、非静力学全球火星大気モデル(火星版SCALE-GM)を開発している。SCALE-GM(https://scale.aics.riken.jp/)は、正二十面体準一様格子法(Tomita et al., 2001, 2002)による地球大気の全球非静力学シミュレーションで実績のあるNICAM(Tomita and Satoh, 2005; Satoh et al., 2008; Satoh et al., 2014)の力学コアを基に、領域モデル(SCALE-RM)との物理過程モジュールの共通化や他の惑星大気計算など、より幅広い応用を目指して開発が進められている大気大循環モデルである。我々は、このSCALE-GMに、火星大気用の定数や放射・地表面過程などの物理モジュールを組み込んだ火星版SCALE-GMを開発している。火星大気用物理モジュールの組み込みは、既存の汎惑星大気大循環モデルDCPAM(https://www.gfd-dennou.org/library/dcpam/)のそれらを移植する形で進めている。DCPAMは静力学平衡を仮定した方程式系をスペクトル法で解く、伝統的な全球大気モデルである。

本研究では、SCALE-GMとDCPAM、両モデルの方程式系や離散化方法の違いなどに注意しつつ、両者の結果を比較・照合しながら火星版SCALE-GMの開発を進めている。まずは、惑星大気に関わる定数を火星大気用に変更して、ニュートン加熱冷却で放射過程を簡単化した火星大気の理想化実験(Mischna & Wilson, 2008)を両モデルで実施した。結果、SCALE-GMとDCPAMとで概ね同じ風速場・気温場が得られることを確認した。次に、DCPAMの火星放射モジュールをSCALE-GMに移植し、その動作を確認するために、鉛直1次元の火星大気計算(Takahashi, http://www.gfd-dennou.org/library/dcpam/sample/2015-02-14_yot/Mars1D/)の放射過程のみを取り出した実験を両モデルで実施した。結果、モデル大気上端付近で、数K程度の差異が認められた。これは、上端境界条件の違いが影響している可能性が考えられる。本発表では、これら開発の進捗状況を報告するとともに、現行の「京」で実施した最新の結果を披露する予定である。