日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS10] 古気候・古海洋変動

2018年5月23日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室、共同)、佐野 雅規(早稲田大学人間科学学術院)

[MIS10-P15] 沖縄の石筍の流体包有物分析が示す最終退氷期における急激な気温上昇

*中村 光樹1三嶋 悟1大嶺 佳菜子1浅海 竜司2Chen Jin-Ping3Shen Chuan-Chou3植村 立1 (1.琉球大学、2.東北大学、3.国立台湾大学)

キーワード:石筍、流体包有物、安定同位体、最終退氷期

最終退氷期は、数千年スケールの急激な気候変動が起こったことが知られており、北半球高緯度における最終氷期は14,700年前Bølling-Allerød (B-A) 期への急激な温暖化よって終了する (Steffensen et al., 2008)。しかし、アジア地域においては、気候変動のタイミングと大きさに未解明な点が多い。例えば、東シナ海の海面水温の、B-A期への温暖化開始時期は北半球高緯度よりも3–4千年早いが、中国大陸の植生変化は同期している (Xu et al., 2013)。日本地域では、水月湖の堆積物は、グリーンランドよりも数百年前早い温暖化開始を示唆している (Nakagawa et al., 2003)。一方で、広島の石筍の炭酸カルシウムの酸素同位体比 (δ18Oca) 変動はグリーンランドの温暖化と同時期に低い値にシフトし、モンスーン強度の変動として解釈されている (Shen et al., 2010)。

石筍は、U-Th法により絶対年代が求まるという長所があるが、そのδ18Oca変動は、滴下水のδ18O値と洞窟内温度の2つの要因に影響されるために定量的な解釈が困難である。この問題点を解決する有力な手法として、石筍中の流体包有物の水の酸素(δ18Ofi)と水素同位体比(δDfi)分析があり、近年、世界各地の石筍の流体包有物分析から気温変動を定量的に復元する研究が行われている。本研究では、東アジア地域の最終退氷期における温暖化のタイミングと気候変動を定量的に復元するため、南大東島で採取された石筍の流体包有物の酸素・水素同位体比 (δ18OfiとδDfi) の分析を行い、過去の降水同位体と気温変動の復元を行った。

試料は、沖縄県南大東島の星野洞において、観光用通路の設置工事の際に破損し洞内に放置されていた石筍を使用した。流体包有物測定のために試料を1.2-3.6 mm間隔で切断した。δ18OfiとδDfiは、本研究室で作成した流体包有物抽出装置 (Uemura et al., 2016) を改良、自動化した手法を用いて水を抽出し、キャビティーリングダウン式分光計(CRDS, L2130-i. Picarro)を用いて分析した。炭酸カルシウムの同位体比 (δ18Oca) は、流体包有物測定後の破砕後試料をGas-bench CF-IRMS(Delta V advantage)を用いて分析した。U-Th年代は国立台湾大学で15点の測定を行った。予想に反してδ18Ofiは、Heinrich stadial 1 (H1)から Bølling-Allerød (BA)期にかけて大きな変動を示さなかった。一方で、分析したδ18Ofiとδ18Ocaから計算した酸素同位体分別係数は、H1から BA期にかけて低下し、急激な温暖化を示唆している。
参考文献:
Nakagawa, T. et al., Science, 299, 688 (2003)
Shen, C-C. et al., QSR, 29, 3327 (2010)
Steffensen, J.P. et al., Science, 321, 680 (2008)
Uemura, R. et al., GCA, 172, 159 (2016)
Xu, D. et al., PNAS, 110, 9657 (2013)