[MIS10-P20] インドネシア産チークを用いた年輪気候学における年輪幅測定法の検証
キーワード:年輪気候学、年輪、年輪幅、古気候
一般に樹木年輪は、その肥大生長量から過去の気候を推定するために用いられてきた(Fritts, 1976)が、熱帯域では年輪を形成する樹種が少なく、熱帯域の樹木による古気候復元の研究例は温帯域・冷帯域に比べて少ない。例外的に、チーク(Tectona grandis Linn. f.)は熱帯域で年輪を形成する数少ない樹種であるので、チークを用いた古気候復元の研究が進められてきた(例えばD’arrigo et al., 1994)。しかし、チークは必ずしも同心円状に年輪を形成するとは限らないので、測定する領域およびその方法によって年輪幅が異なる場合がある。そのため、年輪の肥大生長量と気候の関係の議論の際に、年輪幅の測定方法が影響を及ぼす可能性がある。
本研究では、インドネシア ジャワ島のチークディスク3個体を使用し、チーク年輪を用いた古気候復元の際に、年輪幅の測定方法の違いによって現れる影響を検証した。今回は3種類の方法で年輪幅を求めた。3種類の年輪幅測定法とは、「面積逆算法」、「曲線測線法」、そして「直線測線法」である。「面積逆算法」は、1年分の年輪の外周および内周で囲まれた領域それぞれと同じ面積の2つの円を考え、両者の円の半径差を年輪幅とみなす方法である。「曲線測線法」は、樹木ディスク上の髄線(生長線)に沿って各年輪の年輪幅を計測する方法である。そして「直線測線法」は、ディスクの中心部から外側に引いた直線に沿って各年輪の年輪幅を計測する方法である。先行研究では、年輪幅の測定の際は樹木の外側から中心へくり抜いたコアを用いて年輪幅を測定している(例えばPoussart et al., 2004、Schollaen et al., 2013)。これは、本研究ではおおよそ「直線測線法」で測定した年輪幅に該当する。
まず、「面積逆算法」で各試料の年輪幅を計算し、その年輪幅を3年移動平均の傾向曲線で除して標準化した暫定的な年輪指数を、D’arrigo et al. (1994) によるチークの標準年輪曲線と比較するにより(cross dating)、各年輪の形成年代を決定した。その後、「曲線測線法」と「直線測線法」を用いて、それぞれ16本ずつの測線に沿って年輪幅を測定した。結果、各個体において、「曲線測線法」と「直線測線法」それぞれの16測線の平均年輪幅は、「面積逆算法」の年輪幅とほぼ一致した。
次に、年輪幅の時系列データから気候変動による生長変動を抽出するために、標準化の方法の検討を行った。標準化には、近年の先行研究でよく用いられている、3次平滑化スプライン関数(以下、スプライン関数)を採用した。スプライン関数を用いる場合、気候因子による生長変動が保たれ、なおかつ気候以外の因子による生長変動が減衰されるように、抽出される生長変動の周期成分特性を決定するフィルター長を検討する必要がある。今回は、20年から120年まで10年ごとのフィルター長を持つ11種類のスプライン関数(以下、n年スプライン)で標準化した年輪曲線のうち、古気候復元に最適なものを、個体間総当たりの相関係数の平均値を指標として検討した。その結果、個体間平均相関係数は90年スプラインの場合で最大となったので、本研究の試料に最適な標準化の傾向曲線は90年スプラインであると判断した。今後、議論する年輪指数、およびそれを個体間で平均した年輪曲線は全て標準化に90年スプラインを用いた。
さらに、それぞれの試料において、「曲線測線法」と「直線測線法」の90年スプラインの年輪指数を用いて、測線数の増加に伴い、「面積逆算法」の90年スプラインの年輪指数から得られるディスク全体の持つ古気候の情報をどの程度抽出できるかを検証した。検証には、「面積逆算法」の年輪指数と各測線法の年輪曲線の平均相関係数 、およびレスポンスファンクション解析(Fritts et al., 1971)の決定係数を指標とした。その結果、年輪中心部とディスクの重心のずれが小さく、かつディスクの形状の歪みが小さい試料では、各測線法を用いて2~4測線ほど年輪幅を測れば、「面積逆算法」の年輪幅から得られるディスク全体の持つ古気候の情報を抽出できることが判明した。一方、年輪中心部がディスクの重心から大きくずれていたり、ディスクの形状の歪みが大きかったりする試料の場合は、各測線法で8測線以上必要であることが示唆された。
最後に、3種類の年輪幅測定法を用いて気象データとの相関解析を行った。用いた気象データは、降水量・気温・相対湿度・雲量・PDSI(パルマー旱魃指数)・SOI(南方振動指数)・DMI(ダイポールモード指数)の計7種類である。「面積逆算法」の3個体平均の年輪曲線との相関解析結果は、生長期直前乾季の降水量・相対湿度・雲量・PDSI、生長期雨季のPDSI、および前々年乾季のDMIとの間で有意な正相関が確認された。また、前々年乾季のSOIとの間では、有意な負相関が確認された。そして「曲線測線法」および「直線測線法」では、各個体16測線中4測線、計12測線を任意に選択して平均化した年輪曲線ならば、おおよそ「面積逆算法」における相関解析結果を再現できることが示唆された。
本研究では、インドネシア ジャワ島のチークディスク3個体を使用し、チーク年輪を用いた古気候復元の際に、年輪幅の測定方法の違いによって現れる影響を検証した。今回は3種類の方法で年輪幅を求めた。3種類の年輪幅測定法とは、「面積逆算法」、「曲線測線法」、そして「直線測線法」である。「面積逆算法」は、1年分の年輪の外周および内周で囲まれた領域それぞれと同じ面積の2つの円を考え、両者の円の半径差を年輪幅とみなす方法である。「曲線測線法」は、樹木ディスク上の髄線(生長線)に沿って各年輪の年輪幅を計測する方法である。そして「直線測線法」は、ディスクの中心部から外側に引いた直線に沿って各年輪の年輪幅を計測する方法である。先行研究では、年輪幅の測定の際は樹木の外側から中心へくり抜いたコアを用いて年輪幅を測定している(例えばPoussart et al., 2004、Schollaen et al., 2013)。これは、本研究ではおおよそ「直線測線法」で測定した年輪幅に該当する。
まず、「面積逆算法」で各試料の年輪幅を計算し、その年輪幅を3年移動平均の傾向曲線で除して標準化した暫定的な年輪指数を、D’arrigo et al. (1994) によるチークの標準年輪曲線と比較するにより(cross dating)、各年輪の形成年代を決定した。その後、「曲線測線法」と「直線測線法」を用いて、それぞれ16本ずつの測線に沿って年輪幅を測定した。結果、各個体において、「曲線測線法」と「直線測線法」それぞれの16測線の平均年輪幅は、「面積逆算法」の年輪幅とほぼ一致した。
次に、年輪幅の時系列データから気候変動による生長変動を抽出するために、標準化の方法の検討を行った。標準化には、近年の先行研究でよく用いられている、3次平滑化スプライン関数(以下、スプライン関数)を採用した。スプライン関数を用いる場合、気候因子による生長変動が保たれ、なおかつ気候以外の因子による生長変動が減衰されるように、抽出される生長変動の周期成分特性を決定するフィルター長を検討する必要がある。今回は、20年から120年まで10年ごとのフィルター長を持つ11種類のスプライン関数(以下、n年スプライン)で標準化した年輪曲線のうち、古気候復元に最適なものを、個体間総当たりの相関係数の平均値を指標として検討した。その結果、個体間平均相関係数は90年スプラインの場合で最大となったので、本研究の試料に最適な標準化の傾向曲線は90年スプラインであると判断した。今後、議論する年輪指数、およびそれを個体間で平均した年輪曲線は全て標準化に90年スプラインを用いた。
さらに、それぞれの試料において、「曲線測線法」と「直線測線法」の90年スプラインの年輪指数を用いて、測線数の増加に伴い、「面積逆算法」の90年スプラインの年輪指数から得られるディスク全体の持つ古気候の情報をどの程度抽出できるかを検証した。検証には、「面積逆算法」の年輪指数と各測線法の年輪曲線の平均相関係数 、およびレスポンスファンクション解析(Fritts et al., 1971)の決定係数を指標とした。その結果、年輪中心部とディスクの重心のずれが小さく、かつディスクの形状の歪みが小さい試料では、各測線法を用いて2~4測線ほど年輪幅を測れば、「面積逆算法」の年輪幅から得られるディスク全体の持つ古気候の情報を抽出できることが判明した。一方、年輪中心部がディスクの重心から大きくずれていたり、ディスクの形状の歪みが大きかったりする試料の場合は、各測線法で8測線以上必要であることが示唆された。
最後に、3種類の年輪幅測定法を用いて気象データとの相関解析を行った。用いた気象データは、降水量・気温・相対湿度・雲量・PDSI(パルマー旱魃指数)・SOI(南方振動指数)・DMI(ダイポールモード指数)の計7種類である。「面積逆算法」の3個体平均の年輪曲線との相関解析結果は、生長期直前乾季の降水量・相対湿度・雲量・PDSI、生長期雨季のPDSI、および前々年乾季のDMIとの間で有意な正相関が確認された。また、前々年乾季のSOIとの間では、有意な負相関が確認された。そして「曲線測線法」および「直線測線法」では、各個体16測線中4測線、計12測線を任意に選択して平均化した年輪曲線ならば、おおよそ「面積逆算法」における相関解析結果を再現できることが示唆された。