[MIS10-P25] 秋田県・田沢湖における湖沼堆積物中の珪藻遺骸群集
キーワード:田沢湖、珪藻群集、酸性化
田沢湖は秋田県東部に位置する湖でその面積は25.75 km2である。日本で最も深い湖(最大水深: 423.4 m)で、火山活動に伴って形成されたカルデラ湖であるとされている。1940年に水力発電と灌漑を目的として水路が建設され、玉川および先達川からの導水が開始された。玉川の上流には強酸性の温泉があり、玉川毒水として知られている。この酸性水の導入に伴って湖水の酸性化が問題となっており、固有種のクニマスが絶滅するなど生物相にも影響を与えている。1991年に玉川中和処理施設が建設されてpHは改善傾向にあるが、水質改善目標であるpH 6には現在も達してない。
本研究では(1)TZW15-1コアと、(2)表層リムノスコアを用いた。TZW15-1コアの全長は286 cmで磁化率と放射性炭素年代が測定されている。表層リムノスコアの全長は31 cmで、コア採取直後にアイスフィンガリングを行うことによって不撹乱の試料が得られている。本研究では、田沢湖における過去約7000年間の湖沼環境の変動を明らかにするために、堆積物中の珪藻について主に光学顕微鏡を用いた観察を行った。また、酸性水導入の影響などを調べるためにCNS分析を行った。
(1) TZW15-1コアについては10 cmごとにスミアスライドを作成し、1000倍の光学顕微鏡を用いて写真撮影とカウントを行った。観察の結果、いずれの深度においてもCyclostephanos tazawaensis、Discostella spp.が多く産出した。約4000年前から500年前にはDiscostella spp.の割合が増加したが、この変動と一致するようなC/N、C/Sの変動は見られなかった。
Cyclostephanos属、Discostella属は淡水性、浮遊性の珪藻であり、田沢湖は過去約7000年において淡水の湖であったといえる。約4000年前からはDiscostella spp.が増加するが、CNS分析の結果に大きな変化は見られずどのような環境変動であったかは不明である。また、コア最上部においても酸性化が原因とみられるような珪藻群集やTS濃度の変化は見られず、コア上部が欠落していることが分かった。
(2) 表層リムノスコアについては2 cmごとにスライドを作成して1000倍の光学顕微鏡を用いてカウントを行った。カウントの結果、コア深度17-31 cmではTZW15-1コアの産出頻度と似ており、20-27 cmではEunotia spp.が一時的に増加する。17 cmより上部ではEunotia spp.の産出頻度が増加する。また、コア上部に向けてSurirella spp.が増加する。CNS分析の結果は、TS濃度が深度17 cmにおいて大きく増加し、8 cmより上部では減少している。珪藻分析の結果から、深度17 cmまでが酸性化以前の湖沼であると考えられる。深度8-17 cmではTS濃度が高く、Eunotia spp.が多産することから1940年以降の導水によって湖水の酸性化が進んだ環境を表すと考えられる。Eunotia spp.のうち、Eunotia exiguaは田沢湖より上流の玉川で多く産出した種であり、導水によって運ばれたものもあると考えられる。また、Surirella属は泥の表面などに生息する珪藻であり、田沢湖をダムとして使用することで湖岸の植生が悪化したことを示す可能性がある。深度8 cmより上部ではTS濃度が低下し中和処理施設の稼働によって水質が改善したことがわかる。以上をまとめると、表層リムノスコアでは1940年から始まった田沢湖の酸性化と1990年代以降の中和事業の影響が表れていることが分かった。
本研究では(1)TZW15-1コアと、(2)表層リムノスコアを用いた。TZW15-1コアの全長は286 cmで磁化率と放射性炭素年代が測定されている。表層リムノスコアの全長は31 cmで、コア採取直後にアイスフィンガリングを行うことによって不撹乱の試料が得られている。本研究では、田沢湖における過去約7000年間の湖沼環境の変動を明らかにするために、堆積物中の珪藻について主に光学顕微鏡を用いた観察を行った。また、酸性水導入の影響などを調べるためにCNS分析を行った。
(1) TZW15-1コアについては10 cmごとにスミアスライドを作成し、1000倍の光学顕微鏡を用いて写真撮影とカウントを行った。観察の結果、いずれの深度においてもCyclostephanos tazawaensis、Discostella spp.が多く産出した。約4000年前から500年前にはDiscostella spp.の割合が増加したが、この変動と一致するようなC/N、C/Sの変動は見られなかった。
Cyclostephanos属、Discostella属は淡水性、浮遊性の珪藻であり、田沢湖は過去約7000年において淡水の湖であったといえる。約4000年前からはDiscostella spp.が増加するが、CNS分析の結果に大きな変化は見られずどのような環境変動であったかは不明である。また、コア最上部においても酸性化が原因とみられるような珪藻群集やTS濃度の変化は見られず、コア上部が欠落していることが分かった。
(2) 表層リムノスコアについては2 cmごとにスライドを作成して1000倍の光学顕微鏡を用いてカウントを行った。カウントの結果、コア深度17-31 cmではTZW15-1コアの産出頻度と似ており、20-27 cmではEunotia spp.が一時的に増加する。17 cmより上部ではEunotia spp.の産出頻度が増加する。また、コア上部に向けてSurirella spp.が増加する。CNS分析の結果は、TS濃度が深度17 cmにおいて大きく増加し、8 cmより上部では減少している。珪藻分析の結果から、深度17 cmまでが酸性化以前の湖沼であると考えられる。深度8-17 cmではTS濃度が高く、Eunotia spp.が多産することから1940年以降の導水によって湖水の酸性化が進んだ環境を表すと考えられる。Eunotia spp.のうち、Eunotia exiguaは田沢湖より上流の玉川で多く産出した種であり、導水によって運ばれたものもあると考えられる。また、Surirella属は泥の表面などに生息する珪藻であり、田沢湖をダムとして使用することで湖岸の植生が悪化したことを示す可能性がある。深度8 cmより上部ではTS濃度が低下し中和処理施設の稼働によって水質が改善したことがわかる。以上をまとめると、表層リムノスコアでは1940年から始まった田沢湖の酸性化と1990年代以降の中和事業の影響が表れていることが分かった。