日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS11] 津波堆積物

2018年5月22日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:篠崎 鉄哉(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、千葉 崇(一般財団法人海上災害防止センター)、石村 大輔(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理学教室)

[MIS11-P01] 千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版)について

中村 雅基1村松 弘規1、*迫田 浩司1佐竹 健治2 (1.地震調査委員会事務局、2.地震調査委員会長期評価部会)

キーワード:海溝型地震、長期評価、地震発生確率、千島海溝

はじめに

地震調査委員会では、平成12年度から16年度にかけて海溝型地震の長期評価を実施し、公表してきた。しかし近年、2011年東北地方太平洋沖地震のような超巨大地震を評価できなかったことをはじめ、長期評価の様々な問題点が明らかとなってきた。そこで地震調査委員会では、海溝型地震の長期評価の見直しを開始し、新たに得られた調査観測・研究の成果を取り入れ、南海トラフの長期評価を2013年、相模トラフの長期評価を2014年に改訂した。本発表では2017年12月に公表された千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版)の改訂のポイント等について述べる。

改訂のポイント

千島海溝沿いの地震活動の長期評価は、2003年に第一版を公表し、同年に発生した平成15年(2003年)十勝沖地震を受け、2004年に評価を改訂した。今回の改訂は、2004年以降に得られた知見を取り入れ、次の点の留意して行った:(1)固有地震モデルに固執することなく、発生しうる地震の多様性を考慮した評価を試みる(2)不確実性が大きな情報も、これに伴う誤差やばらつき等を検討した上で、評価に活用する(3)データの不確実性などにより、解釈が分かれる場合は両論併記とする(4)千島海溝沿いと同様の、太平洋プレートの沈み込み帯である日本海溝沿いの地震活動も参考とする。

具体的には、以下のとおりである。

1) 超巨大地震の評価:北海道東部では歴史記録に残るどの津波よりも高い津波が17世紀頃に発生したことが、津波堆積物から知られている。今回の長期評価では、北海道本島の東部に巨大な津波をもたらすような地震を「超巨大地震(17世紀型)」と呼び、霧多布湿原・藻散布沼で行われた津波堆積物調査結果から、平均発生間隔を340~380年、今後30年以内の発生確率を7~40%、地震規模をM8.8程度以上と評価した。17世紀の発生から、既に400年程度経過しているため、地震の発生は切迫していると考えられる。ただし、津波堆積物調査結果からは、個別の地震の発生間隔が100~800年と大きくばらついていることが推定されている。これらの不確実さが地震規模や確率の評価に反映されている。

2) 各領域のプレート間巨大地震の評価改訂:プレートの沈み込みに伴う概ねM8以上の地震についても、評価を改訂した。まず、これまで十勝沖、根室沖、色丹島沖、択捉島沖と4領域に分けていたもののうち、色丹島沖と択捉島沖を統合した。これは、20世紀後半以降に発生した地震の震源域では4つの領域を分けることが可能であるものの、それ以前の地震の震源域については、特に北方領土の地震についての知見が少なく、領域を区分することが難しいと考えたためである。また、十勝沖、根室沖についても、過去の地震の震源域や波源域等は必ずしも一致しないという知見が多いことから、各領域の間に「境界領域」を作り、隣接する領域で規模の大きな地震が発生した際に合わせて破壊される可能性がある領域とした。

今後に向けて

千島海溝沿いの海溝型地震は、地震の発生に関する歴史資料が存在する期間が短いため、19世紀であっても震源域の特定が困難である。繰り返し発生する地震として評価した超巨大地震(17世紀型)や十勝沖、根室沖のプレート間巨大地震について、より信頼性の高い評価を行うために、不確実性を反映できるような確率計算手法の導入、固着域の空間分布やひずみの蓄積過程の解明など、様々なアプローチを試みることが求められる。

超巨大地震(17世紀型)については、17世紀以外の震源域の推定が難しいこと、確率計算に使用した地域が、現在調査されている範囲に比べて狭いこと等の課題が残る。北方領土の津波堆積物の分布解明や、地震発生年代推定の高精度化等が求められるとともに、それらを反映できるような評価手法を検討する必要がある。