[MIS14-P09] イオンクロマトグラフィーによる天然水中メチルホスホン酸の定量
キーワード:メチルホスホン酸、陸水、イオンクロマトグラフィー
はじめに:メチルホスホン酸は、近年水中におけるリン供給源として注目されている。リン制限下にある西湖(山梨県)の表水層ではバクテリアによるメチルホスホン酸の代謝が原因と思われるメタン極大層が形成されていることも確認された。水柱の観測でも、シアノバクテリアSynechococcusとメタン極大層の分布が酷似していた(岩田、2014)。また、湖水中から採取したSynechococcusの培養実験によってメチルホスホン酸の分解が確認され、副生産物であるメタンの生成も確認できた。リン制限湖沼において環境中のホスホン酸がバクテリアに使用されている状況は、普遍的に起こっている可能性もあるが、天然水中のメチルホスホン酸を正確に定量した研究報告はこれまでなかったため、天然水中に存在するメチルホスホン酸の高感度定量法を開発し、河川水等の分析を試みた。
方法:分析手法としてイオンクロマトグラフィーを適用し、極微量のリン酸でも琵琶湖北湖水中から高感度に検出可能な条件を用いた(Maruo et al., 2016)。最適条件について検討した。分析カラムとして高い交換容量を持つAS-23 (Themo Fiehsr Scientific) を用い、サプレッションには再生液として超純水を流すエクスターナルモードを適用した。試水は、2017年11月~12月にかけて琵琶湖東岸の河川、沼、内湖、湧水、琵琶湖、下水処理水で採取した。メチルホスホン酸のピーク同定は、試料にメチルホスホン酸をスパイクしたクロマトグラムとスパイクしていないクロマトグラムを比較して行った。
結果と考察:溶離液濃度を分析カラムの製造元が推奨する濃度よりも低くして最適条件を検討したところ、メーカーが推奨する濃度の半分としたときに、他の主要なイオン成分(硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン)と分離することができた。また、試料導入量を0.1 mL から10 mL まで変化させたところ、5 mLまで直線的にピーク面積が増加したため、5 mLを採用した。最適条件で、検量線(0-10 nmol L-1)を作成したところ決定係数(R2)が0.9982と良好な直線性が得られた。検出限界はS/N比3としたとき5 pmol L-1であった。実試料のうち、琵琶湖水、内湖、河川、下水処理水からはメチルホスホン酸は明瞭には確認できなかった。一方、天野川近くの湧水(かなぼう:米原市世継)と天野川河川水からはメチルホスホン酸が、それぞれ2.9 nmol L-1、2.3 nmol L-1存在することを確認できた。本研究で開発した方法によって、極微量メチルホスホン酸の定量がイオンクロマトグラフィーを用いることで可能であることが明らかになった。実試料分析の結果、今回琵琶湖水からメチルホスホン酸は検出されなかった。しかし、嫌気的環境で微生物により合成されたメチルホスホン酸が、湧水やその近傍の河川水から検出されたことから、地下水を通して琵琶湖へ一定量供給されている可能性がある。
参考文献
岩田智也(2014)湖沼表層に出現するメタン極大層の形成パターンと好気的生成機構の解明.科学研究費助成事業研究成果報告書 課題番号23681003.
Maruo M., Ishimaru M., Azumi Y., Kawasumi Y., Nagafuchi O., Obata H. (2016) Comparison of soluble reactive phosphorus and orthophosphate concentrations in river waters. Limnology 17:7-12.
方法:分析手法としてイオンクロマトグラフィーを適用し、極微量のリン酸でも琵琶湖北湖水中から高感度に検出可能な条件を用いた(Maruo et al., 2016)。最適条件について検討した。分析カラムとして高い交換容量を持つAS-23 (Themo Fiehsr Scientific) を用い、サプレッションには再生液として超純水を流すエクスターナルモードを適用した。試水は、2017年11月~12月にかけて琵琶湖東岸の河川、沼、内湖、湧水、琵琶湖、下水処理水で採取した。メチルホスホン酸のピーク同定は、試料にメチルホスホン酸をスパイクしたクロマトグラムとスパイクしていないクロマトグラムを比較して行った。
結果と考察:溶離液濃度を分析カラムの製造元が推奨する濃度よりも低くして最適条件を検討したところ、メーカーが推奨する濃度の半分としたときに、他の主要なイオン成分(硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン)と分離することができた。また、試料導入量を0.1 mL から10 mL まで変化させたところ、5 mLまで直線的にピーク面積が増加したため、5 mLを採用した。最適条件で、検量線(0-10 nmol L-1)を作成したところ決定係数(R2)が0.9982と良好な直線性が得られた。検出限界はS/N比3としたとき5 pmol L-1であった。実試料のうち、琵琶湖水、内湖、河川、下水処理水からはメチルホスホン酸は明瞭には確認できなかった。一方、天野川近くの湧水(かなぼう:米原市世継)と天野川河川水からはメチルホスホン酸が、それぞれ2.9 nmol L-1、2.3 nmol L-1存在することを確認できた。本研究で開発した方法によって、極微量メチルホスホン酸の定量がイオンクロマトグラフィーを用いることで可能であることが明らかになった。実試料分析の結果、今回琵琶湖水からメチルホスホン酸は検出されなかった。しかし、嫌気的環境で微生物により合成されたメチルホスホン酸が、湧水やその近傍の河川水から検出されたことから、地下水を通して琵琶湖へ一定量供給されている可能性がある。
参考文献
岩田智也(2014)湖沼表層に出現するメタン極大層の形成パターンと好気的生成機構の解明.科学研究費助成事業研究成果報告書 課題番号23681003.
Maruo M., Ishimaru M., Azumi Y., Kawasumi Y., Nagafuchi O., Obata H. (2016) Comparison of soluble reactive phosphorus and orthophosphate concentrations in river waters. Limnology 17:7-12.