日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS18] 水惑星学

2018年5月22日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:関根 康人(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所、共同)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)

[MIS18-P03] レオロジー構造に基づく火星内部での水の存在の検証

*松岡 友希1片山 郁夫1 (1.広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)

キーワード:火星、水、弾性的な厚さ、レオロジー構造

[はじめに]
 かつて火星の表面には大量の水があったと考えられているが,現在は表面に安定して存在する液体の水はない.火星のD/H比から水が宇宙空間へ散逸したと考えられている(Villanueva et al., 2015)が,それだけでは説明がつかないことから一部の水は火星内部に取り込まれていることが示唆されている (Carr and Head, 2003).本研究は火星内部における水の存在の検証を目的とした.その検証のために,火星の地形・重力データからすでに見積もられている弾性的な厚さ (McGovern et al., 2004) を用いた.この弾性的な厚さは,大まかに言えば地球におけるプレートに相当するものである.これは地域ごとに固有のものであり,水の影響を強く受ける.本研究では観測によって弾性的な厚さが求められている13地点について,地域ごとにドライおよびウェット条件においてレオロジー構造を基に弾性的な厚さを算出し,観測によって求められた弾性的な厚さと比較し火星内部における水の存在を検証した.
[計算方法]
 弾性的な厚さを算出するために地域ごとにレオロジー構造を決定する必要があるため,浅部は摩擦則(主に圧力に依存),深部は流動則(主に温度・物質に依存)を用いることによって強度断面図を算出した.またウェット条件については,脆性領域では間隙水圧および含水鉱物による摩擦係数の低下という2つの効果を,塑性領域では結晶内に取り込まれた水が塑性強度を低下させる効果を考慮した.流動則は転位クリープだけでなく拡散クリープ,パイエルスクリープも用いて計算を行った.流動則を用いるにあたり必要となる火星の温度構造は,ガンマ線の観測データを基に放射性元素の濃度および年代の地域性から算出した.
[結果と考察]
 計算の結果,全体的な傾向として弾性的な厚さは古い時代のものほど薄く,新しい時代のものほど厚くなった.例えばドライな条件では,アマゾニアン(31億年前~現在)に形成されたOlympus Monsでは129km,ノアキアン(41億年前~37億年前)に形成されたNoachis Terraでは18kmとなった.水の存在下ではドライに比べ弾性的な厚さが薄くなる傾向があり,Olympus Monsでは21km,Noachis Terraでは6kmとなった.観測と比較すると,ヘスペリアン(37億年前~31億年前)までに形成された地域の多くはドライの計算値が観測から求められた値と整合的な一方で,ノアキアンに形成された地域はウェット条件が整合的となった.なお一部のアマゾニアンに形成された地域はドライでは整合的ではなかったが,これは火山地域であるため本来の熱流量が本研究での見積もりより高いことによる可能性があげられる.
 一般にこれらの結果を観測と比較すると,時代を通じて火星内部において水が変遷したことを示唆し,ノアキアンには存在していた内部の水がヘスペリアン頃にはなくなってしまったのではないかということを示唆している.火星の形成初期にはプレートテクトニクスが存在したという考えもある(Sleep, 1994).ノアキアンにはプレートテクトニクスによる沈み込みが発生し水が内部へ運ばれ,それ以上火成活動がなかったために水が減ることもなく水に富んだ地域となった.しかしその後プレートテクトニクスが停止し内部への水の供給が途絶え,かつ火成活動による脱ガス等で内部の水は減っていき水に乏しくなったと考えることができる.