日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT37] 地球化学の最前線:高度分析装置と地球惑星科学

2018年5月20日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、飯塚 毅(東京大学)

[MTT37-P03] 大気硝酸の存在量を指標に用いた河川環境における窒素循環速度定量

*中川 書子1池上 文香1小幡 祐介1安藤 健太1角皆 潤1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科)

キーワード:大気硝酸、三酸素同位体組成、河川環境、窒素循環

河川によるNO3の輸送は,下流に位置する水環境中の一次生産や生態系構造にとって重要である.しかし,河川水中のNO3は、系外からの流入する他,系内の硝化過程によって生成したり,同化や脱窒過程によって除去されたりするなど,多様な供給・除去過程の影響を受けるため,その濃度の制御因子を明らかにすることは難しい.

近年になって,河川水などの水環境中のNO3の窒素・酸素安定同位体組成 (δ15N,δ18O,Δ17O値) の高感度分析法が確立し,指標として利用できるようになった.特に,同化や脱窒過程で値が変化しない三酸素同位体組成 (Δ17O = δ17O – 0.52 × δ18O) は指標として有用であり,河川水のNO3 (全NO3) についてこれを定量化することで,大気沈着由来の硝酸 (大気NO3) と,硝化によって生成する硝酸 (再生NO3) の混合比を正確に定量でき,定量化したΔ17O値と全NO3濃度をもとに,大気NO3の絶対濃度を求めることが可能になった.

そこで本研究では,河川系内の窒素循環過程の新指標として大気NO3濃度に着目した.大気からの沈着が無視できる場合,流下に伴う大気NO3濃度の変化は,河川系内の同化と脱窒の総和である総除去過程を反映するからである.例えば,硝化による供給速度と同化や脱窒による総除去速度がバランスしている場合,河川水中の全NO3濃度は見た目上変化しない.しかし,硝化によって供給されるのは再生NO3だけであり,また大気NO3は除去されると水中で生成されることはないので,大気NO3の絶対濃度は総除去過程を反映して減少する.従って,流下に伴う全NO3濃度と大気NO3濃度の変化を定量することで,供給速度と除去速度を区別して定量化できる.

本研究では琵琶湖の流入河川の1つである野洲川を対象に,流下に伴う全NO3濃度と大気NO3濃度の変化を求め,それをもとに総除去 (同化+脱窒) 速度と総供給 (硝化+系外流入) 速度の定量化を試みた.その結果,野洲川では各速度に明瞭な季節変化が確認でき,また系外からのNO3の直接流入は大きな影響を与えていないことが明らかになった.さらに,培養実験を行って水柱中の同化速度と河床の総除去速度を求め,定量化した総除去速度の検証を行ったところ,整合的であることを確認した.加えて,河川系内の窒素循環過程は主に河床で進行していることを確認した.

結論として,本研究で開発した大気NO3濃度を指標に用いた定量法は,現場環境を変化させずに河川系内の窒素循環速度を定量化できる.ただし,河川水中の大気NO3が枯渇した河川には適さない.このような河川には,本研究で実施した培養実験のように河床堆積物に大気NO3を添加して培養することで各速度を定量化できる.