日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT37] 地球化学の最前線:高度分析装置と地球惑星科学

2018年5月20日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、飯塚 毅(東京大学)

[MTT37-P07] 日本地球化学史倶楽部

*川口 慎介1 (1.海洋研究開発機構)

キーワード:地球化学史、科学史

現在から見る過去は,ひとすじの道である。現在から見る未来は,死ぬまでのY字路である。過去から現在を見れば,ありえた現在が無限に存在するが,しかしそのほとんどすべては現在からは見ることが出来ない。ありえた現在を見ることが出来るのは,過去を生きた者のみである。

私は海底熱水活動の研究をしている。地球化学においては,1977年ガラパゴス沖の海底に潜航したアルビン号は温水の湧出と豊かな生物群集を・・・といったことが海底熱水研究の経緯と呼ばれるものになる。一方,地球化学「史」においては,どうであろうか。私が海底熱水研究をはじめたのは,指導教員である蒲生俊敬に熱水調査航海への参加を促されたからである。蒲生が海底熱水研究に取り組んだ経緯となると,岡山大学温泉研究所から酒井均が東京大学海洋研究所に赴任し海底熱水研究に取り組み始めたことが決定的であったかもしれないし,それ以前に蒲生の指導教官であった堀部純男が東太平洋海膨の海底熱水にアルビン号で潜航したことを語ったからかもしれない[蒲生 2003 地球化学]。では,なぜ酒井は温泉研から移籍したのか,なぜ酒井は温泉研に赴任したのか,なぜ堀部はアルビン号で潜航したのか,なぜアルビン号は建造されたのか,なぜ堀部は海洋研に赴任したのか。

私は安定同位体組成を研究に利用している。地球化学「史」として見れば,それは私が卒論研究の指導教員とした角皆潤が,安定同位体組成,特に連続フロー型質量分析法の開発と利用を研究の主軸に据えていたからである。角皆が連続フロー型質量分析法に傾倒したのは,大学院生として身を置いた地殻化学実験施設に連続フロー型のDELTA S質量分析計が存在したこととは切り離せないはずだ。ではなぜDELTA Sは地殻化学施設に納入されるに至ったのか。誰がどこで連続フロー型同位体質量分析法を知り,どのように動いたのか。

過去を生きた者にしか語りえない「ありえたはずの現在」あるいは「選ばれなかった未来」を拾い集め「いま・ここ」に立つ自身の背景を知る。『地球化学史倶楽部』はそんな高尚な看板を掲げることはしない。設立者にして現会長の板井啓明によれば「ヒト(人事)」「モノ(大型機器)」「カネ(研究資金獲得)」についての歴史を知りたいという極めて下世話な好奇心こそが倶楽部の活動動機である。

過去は,この世でしか,語れない。