日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-07] 地球科学とアート -互いの創造を拡大する-

2018年5月20日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:笹岡 美穂(高知大学/株式会社SASAMI-GEO-SCIENCE)、船引 彩子(東京理科大学基礎工学部)、久保 貴志(黒部市吉田科学館、共同)、白石 智子

[O07-P02] 神奈川県立生命の星・地球博物館の特別展「地球を『はぎ取る』」が目指した地質学と芸術のコラボレーション

*石浜 佐栄子1田口 公則1大島 光春1 (1.神奈川県立生命の星・地球博物館)

キーワード:地層はぎ取り標本、展示、造形

「科学」は実証的な体系であり、人の手による造形などの「芸術」とは一線を画するものである。しかし科学者であっても、研究対象に“美しさ”や“不思議さ”を感じることはしばしばあるし、そのような感覚が研究を深めていく動機となることも少なくない。特に、研究対象の一部を抽出して標本化したり、展示を行って人に訴えかけようとする際には、決して芸術的な感覚と無関係でないことが多い。今回「地層はぎ取り標本」を対象とした特別展示において、地質学と芸術のコラボレーションを目指した実践を行ったので、それらの成果について報告する。

「地層はぎ取り標本」の持つ“芸術性”
 地層は、過去の地球上で起こった事象や変動などを記録した“地質学的な研究対象”である。他の自然史資料とは異なり単純に収集保存することが難しいが、「地層はぎ取り」という技法を用いると表面を原状のままはがし取って実物標本化し、保存・活用することができる。科学者は「より全体を代表するように」「より分かりやすく」といった自らの科学的な意図を持ってはぎ取り作業を行う露頭の場所や大きさや形を決め、地球の一部を“抽出”するのだが、この作業はある意味で「科学的な対象物(自然)」を「造形作品」に変える作業であるとも言える。神奈川県立生命の星・地球博物館(以下、当館)では、造形作家である森山哲和氏(考古造形研究所)の協力を得て、科学性と芸術性を併せ持つ地層はぎ取り標本の収集を長年続けてきた(神奈川県立博物館調査研究報告(自然科学)第15号, 2017)。

特別展「地球を『はぎ取る』」における地質学と芸術のコラボレーションの実践
当館では昨年度、地層はぎ取り標本を多数用いて構成した特別展「地球を『はぎ取る』~地層が伝える大地の記憶~」を開催した(2017年7月15日~11月5日)。この特別展では、地層が持つ科学的な意義を来館者に伝えるほか、地層の美しさや不思議さなどについても感じてもらうことを目標として掲げた。そのため、ポスターやチラシも、標本を美術品(例えば高級絨毯)のような扱いで撮影した写真を用いた(Fig.1)。また地層はぎ取り標本を額縁に入れて一つの「作品」とし、美術品と対峙するように鑑賞してもらうことを目指したり、標本を用いて露頭を再現する地層のトンネルの造形を行うなど、様々な工夫を凝らした。更に地質学と芸術の関係性について科学者と造形作家が対談を行うサイエンスカフェ「地球の現場の保存と再現 なぜ、地層をはぎ取るのか―芸術と地質学のコラボレーション―」を開催し、広く一般市民に向けて発信した。
 展示室において来館者アンケートを行い(回答数320名)、地層はぎ取り標本の印象を尋ねたところ、中学生以上の67%と小学生以下の36%が「きれいだった」、中学生以上の25%と小学生以下の46%が「めずらしかった」と答え、特に大人を中心に「きれい」、つまり芸術的な感覚で標本を肯定的に捉えた来館者が多かったことが分かった。また気に入った展示物とその理由について問うたところ「模様がきれいだったから」「絵画のようで素敵だったから」という回答が多く見られ、地層の美しさ、魅力を感じてもらうという目標はある程度達成されたと考えられる。

展示手法(情報発信手段)としてのアート
本特別展を企画するにあたり、一般市民の「地層」に対する地味な印象、内容の理解の難しさが関係者間で懸念されていた。そのため、展示を分かりやすく紹介するオリジナルキャラクターをデザインし、展示解説としての一コマ漫画を製作した(Fig.3)。また、キャラクターを標本上に登場させ、吹き出しによる子ども向けの解説を行った(キャラクターデザイン:加藤恵美氏(当館企画情報部員))。地質学の専門を持つ学芸員が原画案を作り、絵が得意な職員が漫画化することで、ビジュアルに訴える分かりやすい展示を作る一助となった。来館者アンケートの回答においても、92%が「キャラクターの解説があって良かった」と回答し、情報発信手段としてのアートの効果が評価されていることが分かった。

本研究の一部には、JSPS科研費JP16K01206、平成29年度全国科学博物館活動等助成事業の助成を使用した。