日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] Eveningポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM13] 太陽地球系結合過程の研究基盤形成

2018年5月20日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:山本 衛(京都大学生存圏研究所)、小川 泰信(国立極地研究所)、野澤 悟徳(名古屋大学宇宙地球環境研究所、共同)、吉川 顕正(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

[PEM13-P04] MUレーダーを用いた実時間アダプティブ航空機クラッター抑圧に関する研究

*橋口 浩之1久保田 匡亮1山本 衛1 (1.京都大学生存圏研究所)

キーワード:大気レーダー、クラッター抑圧、ウエイトノルム拘束付DCMP法、MUレーダー

大気レーダー観測において、しばしば強い地形性クラッターエコー(山や建物からのエコー)や航空機クラッターエコーが問題になることがある。地形性クラッター抑圧法としてNC-DCMP (Norm Constrained-Directionally Constrained Minimum Power)法が提案され、MUレーダーによる実観測データに適用し、効果があることが実証されている[Nishimura et al., JTech., 2012]。NC-DCMP法では、所望信号方向を固定した上で、ウエイトベクトルのノルムをある値以下に制約して、信号電力を最小化するように制約条件付最適化問題を解く。
MUレーダーでは30年以上に渡って、毎月100時間程度の対流圏・成層圏標準観測モードによる観測を継続している。我々は、NC-DCMP法によるクラッター抑圧処理をMUレーダーのオンライン処理システムとして実装することに成功した。これにより、観測データの記録容量を数百分の1に削減でき、外部記憶装置などの制約の少ない標準観測を行うことが可能である。このモードでの観測データは8秒に1回取得される。そのため、実時間でクラッター抑圧を行うためには全ての信号処理を8秒以内に行う必要があるが、処理方法の工夫により、NC-DCMP法の処理時間を平均1.0秒にまで高速化した。山や建物からのエコーは時間的に大きく変化しないため、インコヒーレント積分7回分(約1分間)の受信信号を用いて最適ウエイトベクトルを求めるようにしたところ、良好な結果を得た。2015年11月の標準観測からNC-DCMP処理を適用しているが、安定運用できている。
NC-DCMP法は移動する目標に対しては高い効果を得られず、航空機クラッターを十分に抑圧することは困難である。先行研究において提案された2段階NC-DCMP法の適用を検討した。この手法は、まず、各時刻における航空機クラッターの到来方向を推定し、NC-DCMP法を用いて航空機クラッターを分離再生した後、元の受信信号から差し引く。次に再度NC-DCMP法を用いて地形性クラッターを抑圧する、というものである。先行研究では、上空を全探索し航空機クラッターの到来方向を推定していたため、実時間処理は不可能であった。そこで、航空機が精度の高い位置情報などを放送するシステムであるADS-B (Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)を利用することで航空機クラッターの到来方向の探索範囲を限定する方法を採用した。これにより、従来法よりも約5dBの抑圧特性の改善を得た。
インドネシア共和国の西スマトラに建設が計画されている赤道MUレーダーは、八木アンテナ19本を1群とする55群構成で、各群からの受信信号を独立に取得可能なシステムが提案されている。本研究の成果は、この赤道MUレーダーにも適用可能である。