日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] Eveningポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM15] Dynamics in magnetosphere and ionosphere

2018年5月21日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:田中 良昌(国立極地研究所)、堀 智昭(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、中溝 葵(情報通信研究機構 電磁波研究所、共同)、尾崎 光紀(金沢大学理工研究域電子情報学系)

[PEM15-P14] ロングイヤービンにおけるオーロラスペクトログラフによるN2+共鳴散乱光観測

遠藤 友1、*坂野井 健1小川 泰信2鍵谷 将人1 (1.東北大学大学院理学研究科惑星プラズマ・大気研究センター、2.国立極地研究所)

キーワード:オーロラ、イオン上昇、大気散逸

私たちは地上光学観測により上部電離圏における分子イオン上昇流に着目した。イオン上昇流はイオン流出のソースとされ、惑星大気進化や磁気圏ダイナミクスに与える影響として重要視されている。電離圏E層に存在する重い分子イオンは磁気圏においても観測されている[Klecker et al., 1986]。しかし、電離圏F層にピークをもつ圧力勾配をどのように超えて、上部電離圏、さらに磁気圏へと流出しているのかは未解明である。その上、上部電離圏で観測される
 Sunlit auroraはN2+イオンの生成と関わりがあるが、そのメカニズムはよくわかっていない。そのため、私たちは上部電離圏のN2+イオン生成、N2+イオン上昇メカニズムを解明することを目的に地上光学観測により上部電離圏N2+共鳴散乱光を観測した。
 私たちはロングイヤービン(78.15N, 16.04E)にあるオーロラスペクトログラフの2004~2016年分のデータを用いた。このスペクトログラフは地磁気南北を分断する面を観測し、視野は180度、観測波長範囲は420~730 nmである。この解析では、ASGと全天カメラデータから、一つの磁力線上で発光していると考えられるシングルオーロラアークを見つけ出し、観測されるオーロラ発光(N2+ 427.8 nm, O 557.7 nm, O 630.0 nm)を高度プロファイルに直し、さらにshadow heightを計算することでN2+共鳴散乱光を観測した。解析日はKp指数が4-を超える日かつ、冬至前後1ヶ月の全75日間で、その中からN2+共鳴散乱光を13イベント(9~18 MLT)見つけだした。今回の発表ではその中でも、磁気嵐時(Dst, ~150 nT)が起こった2015年12月21日、7:00~8:34 UTの解析を発表する。
 2015年12月21日7:00~8:34 UTはASGの視野の地磁気南方向でstableなシングルオーロラアークが観測された。8:34 UTにはN2+共鳴散乱光が高度350 kmで650 Rまで達し、100 R以上の発光が高度1000km以上まで続いた。その時、低エネルギー電子の降り込みによる強い630.0 nm発光(~10 kR)が観測された。上部電離圏427.8 nm発光は557.7 nm, 630.0 nm発光の傾きが高度450 km以上で急になり、電子降り込みによる発光ではないと考えられる。8:30 UT頃から、雲が全天の南側を覆い始めてしまっているが、ASG視野の南側に雲がない7:00~8:20 UTの間のN2+共鳴散乱光の時間変化を解析した。その結果、電離圏F層(400 km)と上部電離圏 (800 km)の発光は違った様子が見られた。F層発光では150~500 R の範囲で発光が増減している様子が見られたが、上部電離圏ではランダムな発光の変化は見られず、100 Rから300 Rに発光が徐々に増加していく様子が観測された。さらに、DMSP衛星がこのオーロラを通過した7:36 UTのオーロラ発光プロファイルをモデル計算と発光が合うかを見積もった。モデル計算には高度80~640 kmまで計算をすることができるGLOWモデルを用い、DMSP衛星が観測した降り込み電子フラックスをインプットに用いた。モデル計算では大気のモデルをNRLMSISE-00モデルによる値をインプットとしているが、高度200 km以上で主な大気成分のN2とOのスケールハイトを1.5倍にすると、モデルと観測値の発光プロファイルが合うことがわかった。特に、427.8 nm発光は高度200 ~ 450 kmの間で発光が一致した。
 この結果から、N2+イオン上昇はE層ではなく、F層やそれよりも高高度で起こっていることが示唆された。また、F層ではN2とO+の電荷交換反応によってN2+が生成されるが、上部電離圏のN2+発光を説明するためにはN2+イオン上昇や電荷交換反応を起こすO+がF層から上昇する必要があることがわかった。このイベントでは630.0 nm発光が強かったことからも、N2+イオンは低エネルギー電子の降り込みで電子温度の上昇が起こり、ambipolar diffusionによって上昇が起こる可能性が示唆された。このようなN2+イオン上昇はイオン流出として、磁気圏さらには惑星空間へと流出し、磁気圏ダイナミクスや地球の大気進化に多大な影響を及ぼすことが考えられる。これはあらせ衛星や将来ミッションによって、定量的に解明していく必要がある。