日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] Eveningポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 火星と火星圏の科学

2018年5月20日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:宮本 英昭(東京大学)、臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、松岡 彩子(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系、共同)、Sushil K Atreya (University of Michigan Ann Arbor)

[PPS07-P02] 火星古気候モデルへの導入に向けた積雲対流スキームの定量的評価

*鳥海 克成1鎌田 有紘1黒田 剛史2寺田 直樹1笠羽 康正1村田 功3中川 広務1 (1.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻惑星大気物理学分野、2.情報通信研究機構 統合ビッグデータ研究センター ビッグデータ利活用研究室、3.東北大学大学院環境科学研究科)

キーワード:積雲対流スキーム、火星

火星では流水活動を示す地形が多数発見され、38億年程度前の火星は液体の水が長期に渡って存在できる環境だったことが示唆されている。一方、当時の太陽放射強度は現在の70-80%程度であったとされ(暗い太陽のパラドックス)、強い温室効果をもつCO2が2~7bar程度存在したとしても、流水環境を生み出すために前提となる温暖な環境を維持することは難しいことが幾つかのモデル研究で示されてきた。[e.g. Kasting, 1991; Forget et al. 2013]

我々は、太古の海洋存在下における水蒸気や雲による放射効果、土壌熱力学、海洋熱力学、水文過程を考慮に入れた火星古気候モデルを新たに開発し、液体の水が存在可能な温暖な火星環境および大部分の流水地形を再現することに成功してきた[Kamada et al., submitted to Icarus]。しかしこのモデルでは、サバエア大陸の高地などの一部の地域で流水地形が再現されていない。この原因としては、タルシス山地の形成前後による風系の変化、氷河流の未考慮などの要因が考えられる。その中の一つとして、このモデルにおける降水過程は大規模凝結のみを考慮し、積雲対流効果を考慮に入れていないことも考えられる。積雲対流効果は、大気の成層不安定状態を対流活動により解消し、対流性の降水を発生させるため、降水の地域分布と量に影響を与えうる。

本研究では、火星古気候モデルに積雲過程を表現するため、中低分解能での積雲計算に優れたKain-Fritsch スキーム [Kain and Fritsch, 1993]の導入を試みていく。このスキームは、格子中の積雲の効果をひとつの積雲の生成・成長・衰退に代表させて成層不安定性を解消させるものである。地球の大気大循環モデルにおいて広範に用いられているRelaxed Arakawa-Schubert スキーム [Moorthi and Suarez, 1991]は、格子中に異なる雲頂をもつ複数の積雲を扱えるが、雲質量フラックスを導出する過程などで地球の経験則を用いており、このまま古火星に適用できるか自明ではない。Kain-Fritsch スキームは、地球の経験的仮定に依存せず積雲の鉛直構造を直接計算する点で、火星古環境モデルにはより適している。まずは観測データが多く、数値実験に基づいた理解も進んでいる地球の条件を設定したGCMにおいて、Kain-FritchスキームとRelaxed Arakawa-Schubertスキームによる降水効果を比較・評価を行う。ここでの全降水分布と降水量(対流性、凝結性含めた)の結果は、両者で類似したものになると考えられる。次いで、このモデルに与える大気圧、大気組成、太陽フラックスなどをKamada et al. で適用した過去火星環境条件(0.5 – 2.0 bar のCO2大気)へ変更し、両者が与える降水量・分布の特性を定性的・定量的に比較・評価する。この結果は各スキームの特徴を反映したものだと推測される。よってその結果の差異が古火星において妥当であるか考察する。本講演では、この試行結果の総括および今後の展望について報告する。