日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 惑星科学

2018年5月20日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:岡本 尚也(国立研究開発法人宇宙航空開発機構 宇宙科学研究所)、黒崎 健二(名古屋大学大学院 理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻)

[PPS08-P04] 粒子群の衝突に関する実験とマクロな流体力学的モデルについて

*鈴木 宏二郎1正木 千尋1渡邉 保真2 (1.東京大学大学院新領域創成科学研究科、2.東京大学大学院工学系研究科)

キーワード:衝突、粒子、バリスティックレンジ、圧縮性流れ

土星の輪のように真空中でたくさんの粒子が群として存在し、そこで起こる衝突現象がマクロに見てどのように説明できるかという問題は、流体力学的にも大変興味深いテーマである。粒子だけの集合体は粉体流(Granular Flow)として研究がなされているが、多くは比較的低速の流れを扱っており、衝突破壊を伴う高速粉体流れについては実験、理論とも解明が進んでいるとは言えない。本研究では、飛翔体がシート状の粒子カーテンを高速で横切る状況をバリスティックレンジによって再現し、その様子を高速ビデオで観察した。次に、得られた画像からそのダイナミクスがマクロな流体モデルで記述できるかについて検討した。圧縮性気体とは異なり、粉体には熱運動がないため、真空中に粉体が膨張していく運動は起こらないであろう。従って、「圧縮性かつ非膨張(CNE: Compressible and Non-Expanding)流体」モデル(Suzuki, K., AIAA-Paper 2016-4107, 2016)であれば、そのマクロな挙動を再現できる可能性がある。ここでは、粉体ジェットが粉体カーテンに衝突していく際の現象について、CNE流体数値解析と実験を比較し、その適用性を検討した。

実験は、二次元シート状に落下する粒子群にバリスティックレンジで飛翔体を発射し、それが粒子シート面内を進む際の挙動を高速ビデオで記録する方法で行った(Masaki, C. et al., ISTS 2017-e-48-s, 2017, FLUCOME 2017)。粒子は研磨用ガラスビーズ(直径0.2mm)を用い、約35Paまで減圧した測定部に設置した二次元漏斗状の粒子落下装置から幅2mm、全長600mmのスリットを通して自由落下させた。飛翔体としては主に、直径25.75mm、質量約4.3gのポリカーボネイト製中空球を用い、その飛行速度は最高約430m/sである。カメラの撮影速度は20,000fps、露光時間は1μsである。画像の観察から、飛翔体から離れた前方では粒子群に擾乱が見られないため、超音速状態であること、飛翔体前方に衝撃波のような弓状パターンが見られること、光の散乱状態からこのパターンは飛翔体表面に衝突して微粒子に粉砕された粒子で作られていること、飛翔体後方のウェイク領域では粒子のまわり込み、すなわち、膨張流れに相当する現象は見られないこと、などがわかった。

円柱状飛翔体の正面に縦穴を開け、その中に粒子を入れて射出し、サボ分離板で粒子のみがジェットのように射出される実験も行った。雲状の粒子集団を約176m/sで粒子カーテン面内に衝突させた実験では、時間とともに高密度領域が下流側に移動すること、そのイメージは時間とともにぼやけ、散逸現象の存在を示唆していること、ジェット貫入部に粒子が存在しないクレータ構造ができること、などが明らかになった。

CNE流体モデルでは、通常の圧縮性流体とは異なり、負荷時(圧縮時)の音速を除荷時(膨張時)の音速より低く設定することで、除荷後も密度が元に戻らない非可逆的な圧縮を表現している。その数値解析は、有限体積法とゴドノフ法の組合せにより通常の圧縮性流体と同様に行うことができる(Suzuki, K., ISTS 2017-k-47, 2017)。そのために必要な一次元リーマン問題の基本解は、非可逆的圧縮波、弾性的(可逆的)除荷/負荷波、接触面、真空(void)との接触面(圧力が0)、で構成される。非可逆的圧縮の音速は、実験におけるジェットと垂直方向への変化の広がりから概算することができ、ここでは約75m/sであった。176m/sの粒子ジェット衝突実験に対応する数値解析では、ジェット貫入口が空隙(クレータ)として残ること、貫入部前方に高い密度領域が存在するなど、定性的に一致する点が見られ、CNE流体モデルは現象の特徴をとらえていることが示された。状態方程式の非線形化(例えば、密度とともに上昇する音速など)やNavier-Stokes方程式型粘性拡散モデルの導入によりモデルによる現象の再現性改善が期待できる。

本研究は、科学研究費補助金(基盤研究(B) No. 16H04585)の支援を受けて行われた。ここに感謝の意を表する。