日本地球惑星科学連合2018年大会

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[EJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG59] 日本列島の構造と進化: 島弧の形成から巨大地震サイクルまで

2018年5月22日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:佐藤 比呂志(東京大学地震研究所地震予知研究センター)、篠原 雅尚(東京大学地震研究所)、石川 正弘(横浜国立大学大学院環境情報研究院、共同)、松原 誠(防災科学技術研究所)

[SCG59-P04] ロシア・ハバロフスク地方の下部白亜系:砕屑性ジルコン年代分布とテクトニクス

*大藤 茂1奥田 朱音2三宅 裕子2長田 充弘1山本 鋼志3ディデンコ アレクセイ4クディモフ アレキサンダー4セルゲイ ズャブレフ4 (1.富山大学大学院理工学研究部(理学領域)、2.富山大学理学部、3.名古屋大学大学院環境学研究科、4.ロシア科学アカデミー極東支部テクトニクス地球物理研究所)

キーワード:砕屑性ジルコン、下部白亜系、極東ロシア、アムールコンプレックス、ジュラブレフカコンプレックス

はじめに 極東ロシアから北海道中西部には,下部白亜系堆積岩類が南北方向に複列分布する:西からアムール・コンプレックス(C),キシリョーフカ-マノマC,ジュラブレフカC,および空知層群~下部エゾ層群である.これらの内,前二者は同一収束境界の剥ぎ取り-底付け付加体の関係にあり,後二者は東方のもの程より南方で堆積しその後北上したものと考えられることが多い2), 5), 7).本発表では,アムールCとジュラブレフカCの砕屑性ジルコン年代分布から,両者の (1) 堆積年代の拘束,(2) 後背地の拘束,および (3) 堆積後の再配列過程の復元を試みる.

試 料 アムールCとジュラブレフカCは,大型化石を稀に産するタービダイトを主体とする.アムールCの一部は遠洋性から半遠洋性の珪質岩を挟在し,それは見かけ下方へ若くなる時代極性をもつ7).また,アムールCはシホテアリン中央断層(CSF)の両側に,ジュラブレフカCは東方に,それぞれ分布する.ハバロフスク地方,ハバロフスク-リドガ間でアムールCの砂岩を6試料,リドガ-ヴァニノ道路沿いでジュラブレフカC砂岩を7試料それぞれ採取し,そこから分離した砕屑性ジルコンの年代分布を求めた.当地域のアムールCはジュラブレフカCは,小褶曲や断層を有するものの,大局的に西に傾斜する.以下に,採取試料を見かけ下位(東方)から簡単に記載する.

アムールC:東から順にAm1Am6の番号を付した.
Am1 [49°24′43.99″N, 136°42′39.57″E]:Gornoprotoka層の石英質アレナイト.
Am2 [48°43′45.43″N, 135°48′27.76″E]・Am5 [48°39′47.12″N, 135°29′59.98″E]・Am6 [48°39′57.41″N, 135°29′54.77″E]:Pivan層の砂岩泥岩互層中の石英質アレナイト.
Am3 [48°28′30.15″N, 135°27′50.92″E]・Am4 [48°39′43.18″N, 135°30′14.83″E]:Pivan層の砂岩泥岩互層中の長石質アレナイト.

ジュラブレフカC:東から順にZh1Zh8の番号を付した.Zh3はジルコンを産しなかった.
Zh1 [49°12′2.9″N, 139°6′49.5″E]・Zh2 [49°11′0.7″N, 139°4′19.9″E]:Primanka層の長石質アレナイト.
Zh4 [49°9′30.2″N, 138°54′35.9″E]・Zh5 [49°11′42.9″N, 138°52′59.4″E]:Katalevka層の砂岩優勢砂岩泥岩互層中の長石質アレナイト.
Zh6 [49°11′58.3″N, 138°52′49.9″E]:Ust' Kolumbe層の片状長石質アレナイト.
Zh7 [49°12′37.9″N, 138°52′7.3″E]:同層砂岩泥岩互層中の長石質アレナイト.
Zh8 [49°15′29.8″N, 138°49′58.3″E]:ホルンフェルス化したUst' Kolumbe層の泥質砂岩.56 Maの流紋岩質岩脈に切られる.

手 法 名古屋大学環境学研究科設置のLA-ICP-MSを用いて,砂岩試料から分離した砕屑性ジルコンのウラン-鉛同位体比を測定し,年代を算出した.得られた結果からコンコーディア図で年代クラスターを識別した上,

   90≦%conc=100・(206Pb/238U年代) / (207Pb / 235U年代)≦110

であるデータをコンコーダントなデータとして採用し,206Pb/238U年代のヒストグラム,相対確率分布図,および砕屑性ジルコン年代の時代別帯グラフを作成した.

結 果 砕屑性ジルコン年代の時代別帯グラフの形で結果を表示する(Fig.1).いずれの試料も,ジュラ紀,三畳紀,ペルム紀および石炭紀のジルコンを共通して含む.また,Zh6を除く全ての試料が,オルドビス紀,カンブリア紀および新原生代(450–900 Ma)のジルコンを含む点で共通する.一方,アムールCとジュラブレフカCの顕著な相違はないが,前者の方が後者より,ペルム紀ジルコンやオルドビス紀~新原生代ジルコンに富み,中生代ジルコンに乏しい傾向がある.

考 察

堆積年代の拘束:堆積年代上限値(YZ;Fig. 1)より,今回採取したハバロフスク市近隣に分布するアムールCは,上部ジュラを含む可能性がある.ジュラブレフカCは,ジュラ紀の堆積年代上限値をもつ1試料(Zh5)以外は前期白亜紀に相当するYZを有した.また,Zr5とZr2 を除く5試料には,YZに見かけ下位(東方)ほど若くなる極性が見られた.

後背地解析:先行研究による火成岩のジルコンU–Pb年代値をレビューすると,中国黒竜江省北東縁を中心に,ハンカ-佳木斯地塊に450–900 Maの深成岩類が分布し1),その南西側にペルム紀深成岩類が6),その南西の吉林省北東部から朝鮮半島にかけて三畳紀~前期ジュラ紀深成岩類が主として広く分布する4).これら火成岩類の分布が下部白亜系へのジルコン供給に反映されたとすると,アムールCもジュラブレフCも,後背地は,両コンプレックス分布域よりやや南西側のハンカ-佳木斯地塊にほぼ限定される.中生代ジルコンに富み,ペルム紀ジルコンやオルドビス紀~新原生代ジルコンにやや乏しいジュラブレフカCの特徴は,ジュラブレフカCがアムールCよりやや南西で堆積し,CSFの左横ずれ運動で北上したことを示す可能性がある3)

引用文献 1) Bi et al., 2014: J. Asian Earth Sci., 96, 301–; 2) Khanchuk et al., 2016: J. Asian Earth Sci., 120, 117–; 3) Liu et al., 2017: Tectonics, 36, 2555–; 4) Sagong et al., 2005: Tectonics, 24, TC5002; 5) Tamaki et al., 2008: J. Geol. Soc. Jpn, 114, 207–; 6) Wu et al., 2011: J. Asian Earth Sci., 41, 1–; 7) Zyabrev et al., 2015: Geotect., 49, 533–.