日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG60] 岩石・鉱物・資源

2018年5月23日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:門馬 綱一(独立行政法人国立科学博物館)、野崎 達生(海洋研究開発機構海底資源研究開発センター)、齊藤 哲(愛媛大学大学院理工学研究科、共同)、土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)

[SCG60-P05] 伊豆弧、新島火山における流紋岩質マグマの生成・分化過程に関する岩石学的、地球化学的研究

*荒川 洋二1遠藤 大介2池端 慶1大鹿 淳也3新村 太郎4 (1.筑波大学 生命環境系 地球進化科学専攻、2.島根県立三瓶自然館サヒメル、3.中国地質大学(武漢)地球資源学部、4.熊本学園大学 経済学部)

キーワード:新島火山、高シリカ流紋岩、伊豆弧、カミングトン閃石

伊豆弧北部、背弧域に位置する新島は、流紋岩を主体とする火山で、一つの玄武岩質噴火ユニットを含んでいる特徴的な火山である。伊豆弧における火山岩類の近年の岩石学的、地球化学的、およびテクトニクスに関する研究は多く、島弧横断および縦断方向でのマグマの特徴やその生成過程等について様々に議論されてきた (例えば、Hochstaedter, 2001; Ishizuka et al., 2003; Tamura et al., 2009; Kimura et al., 2010; Tollstrup et al., 2010; Haraguchi et al., 2017) 。しかしながら、流紋岩を主体とする新島火山に関する詳細な岩石学的・地球化学的研究は限られていた。新島火山の大部分を占める流紋岩類は、一色 (1987) により12の噴出ユニット(単成火山)に区分されている。本研究では、その区分および、遠藤 (2012)による研究成果を基に、各ユニットおよび全体的な岩石学的・地球化学的特徴をまとめ、新島火山の流紋岩質マグマの生成過程について考察する。さらに、伊豆弧北部における新島火山のマグマの空間的な位置づけについても議論する。

新島火山の流紋岩類は、含まれるマフィック斑晶鉱物に基づき、斜方輝石-カミングトン閃石タイプ、カミングトン閃石タイプ、カミングトン閃石-黒雲母タイプ、黒雲母タイプの4つのタイプに区分され、これらは、概ね噴出の時代変化に対応している(例えば、Endo et al., 2010)。また、普通角閃石は黒雲母流紋岩以外のタイプに含有する場合が多い。流紋岩中に含まれる斜長石のAn mol.%は12~43%で、噴出の時期とともに減少し、斜方輝石、カミングトン閃石、(普通角閃石)、黒雲母のMg# も時代とともに減少傾向を示す。全岩化学組成は、流紋岩全体では高いSiO2 (73~78wt.%)、K2O (1.5~3.5wt.%) を示し、各種主要・微量元素組成図等では4つのタイプごと、および各ユニットでわずかに異なったデータ分布を示す。また、希土類元素 (REE)パターン、不適合元素パターン共に類似するが、ユニットによるわずかな違いが認められた。これらのユニットごとの違いは、親マグマに関する違いと分化過程の違いを反映していると考えられるが、流紋岩類全体としては、ある共通の起源マグマを仮定することは可能である。また、一部の流紋岩中の斜長石斑晶の組成ゾーニング(逆、あるいは反復ゾーニング)や溶岩中のマフィック包有物の存在 (例えば、Arakawa et al., 2017) は、玄武岩質マグマの関与を示していると考えられる。一方、流紋岩類のSr同位体比(0.70317-0.70338)とNd同位体比(0.51300-0.51307)はユニットで違いが明確ではなく、これらの値は玄武岩ユニットの試料と類似する。

各種実験岩石学的研究 (例えば、Nicholls et al., 1992)を考慮した場合、新島における流紋岩類の高いSiO2 、K2O量、およびカミングトン閃石の含有と単斜輝石を欠く鉱物組み合わせは、極めて低温 (<800°C) で低圧(<3kb)、および含水条件の基に形成されたことを示している。これは、新島における流紋岩の鉱物の平衡関係に基づくマグマ温度の見積もり(斉藤、2008)とも一致する。また、新島の流紋岩質マグマは、鉱物組み合わせ、主要・微量元素の特徴からは、普通角閃石、カミングトン閃石、および斜長石の分別を主とした分化したマグマである可能性が高い。このことは、流紋岩類にしばしば含有するトーナル岩質捕獲岩がcumulateの特徴を示すこととも調和する(例えば、Arakawa et al., 2017)。流紋岩類の起源マグマは、現時点で特定はできないが、下部地殻(例えば角閃岩など)ではなく、中部地殻の部分溶融によって形成された可能性が高い。一方、伊豆弧における広域的な観点から流紋岩類などの珪長質火山岩類の鉱物組み合わせや化学組成等を比較した場合、新島の流紋岩類は、伊豆弧北部~中部における火山フロントの流紋岩類とは明らかに異なり、また同背弧域に分布する他の流紋岩質岩とも必ずしも一致しない。これらの結果は、新島の流紋岩類のマグマの起源物質、生成条件・生成過程における特異性を示している可能性があり、伊豆弧、沈み込む帯における深部構造やマグマ生成システムの空間的な違い(多様性)を反映していると推測される。