日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG64] 脆性延性境界と超臨界地殻流体:島弧地殻エネルギー

2018年5月21日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:土屋 範芳(東北大学大学院環境科学研究科環境科学専攻)、浅沼 宏(産業技術総合研究所・再生可能エネルギー研究センター)、小川 康雄(東京工業大学理学院火山流体研究センター)

[SCG64-P02] 分光計測を用いた多成分地殻流体の臨界点計測手法の確立に向けた実験的検討

*大島 悠太1平野 伸夫1土屋 範芳1 (1.東北大学大学院環境科学研究科)

キーワード:超臨界流体、臨界点、分光計測

はじめに:地殻流体は様々な地殻物質との反応による多成分流体であり,さらに地球内部などの高温高圧条件下では超臨界状態で存在していると考えられている。地殻流体の相状態や臨界点の把握はこのような高温高圧下での反応のメカニズムを解明するうえで極めて重要であり,高度な臨界点計測技術が必要となっている。従来の臨界点計測手法には主に以下の2つが挙げられる。

(1)気液界面(メニスカス)の消失と出現を観察する方法

(2)実験値に基づいた状態方程式から類推する方法

(1)の方法では,界面の変化が徐々に起こるため臨界点を正確に定めることが困難であるという問題がある。また、(2)の方法では,流体が多成分になればなるほど状態方程式が複雑になり,計算の精度が落ちてしまうという問題がある。そこでSekiguchi et al. (2014) は,流体の光の透過性を解析することで臨界点の決定を試みた。臨界点では,臨界蛋白光という特異な散乱現象を観察することができ,流体の透過光は減少し,散乱光は著しく増加する。この手法では,透過光の変化を分光計測することで臨界点を決定していたが,臨界点付近における透過光の変化はあまり明確ではないという問題があった。そこで本研究では,散乱光の分光計測による臨界点計測手法を提案し,正確かつ容易な計測技術の確立を目指している。本発表では提案手法の確立に向けた実験的検討を行った。



臨界点計測実験:本研究ではH2Oを試験流体とし,実験を行った。実験容器である観察用サファイア窓付きオートクレーブを真空ポンプにより真空にし,試験流体を充填率が約45%になるよう封入した。容器内の温度は,加熱器によって400℃まで上昇させたのち,加熱器の電源を切り空冷によって常温(25℃)まで冷却した。実験中の流体には光源であるハロゲンランプから光を照射し,その90°側方散乱光の分光スペクトルを測定波長範囲400 nm ~ 800 nm で測定した。同時に、その時の容器内の温度と圧力も測定した。これらの実験データから,測定波長範囲における分光スペクトルの積算値( 総散乱強度 )を計算し,温度に対する総散乱強度の変化を解析することで臨界点の決定を試みた。これらの結果から,透過光の変化を分光測定するSekiguchi et al.(2014)の手法との比較を行った。



結果および考察:まず,加熱時における総散乱強度の結果から述べる。加熱時の場合,温度が臨界温度に近づくにつれて総散乱強度が減少し,臨界点で最も低くなった。温度が臨界点を超え,超臨界状態となっても総散乱強度に大きな変化はみられなかった。これは,加熱時における容器内の温度場の均一性が冷却時よりも低く,臨界蛋白光がはっきりと観察できないことが原因だと考えられる。一方,冷却時の実験結果においては,臨界点よりも高い温度から臨界点に近づくにつれて総散乱強度は減少しているが,臨界点付近で総散乱強度が著しく増加し,極大を示すことが分かった。この総散乱強度が極大を示す温度と容器内の圧力が臨界点の文献値とほぼ一致した。このことから提案手法では,冷却時における流体の散乱光を分光計測することで臨界点の決定が可能である。また,Sekiguchi et al.(2014)の手法との比較から,臨界点における散乱光の変化が透過光よりも顕著であることが分かり,提案手法のほうが計測手法として有効であると考えられ,今後は多成分流体にも応用できると考えられる。なお,当日の講演では,提案手法を用いたNaCl水溶液および海水の臨界点測定結果についても考察する。



- Tsuchiya, N. and Hirano, N. ( 2007 ) Chemical reaction diversity of geofluids revealed by hydrothermal experiments under sub- and supercritical states. Island Arc, 16, 6-15.

- 関口知寿, (2014), 多成分流体の臨界現象と分光計測を用いた臨界点の推定, 東北大学大学院環境科学研究科修士論文

- ASME (2009) International Steam Tables for Industrial Use, Second Edition, ASME PRESS, New York.

- Shibue, Y. (2000) A Modified Rackett Equation Applied to Water and Aqueous NaCl and KCl Solutions. J. Chem. Eng. Data, 45, 523-529.