日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG67] 海底下の変動現象を捉えるための海域観測の現状と展望

2018年5月24日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:平原 和朗(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地球物理学教室)、日野 亮太(東北大学大学院理学研究科)、堀 高峰(独立行政法人海洋研究開発機構・地震津波海域観測研究開発センター)

[SCG67-P02] 海中音速の水平勾配を考慮した海底地殻変動観測のアレイ解析

*本荘 千枝1木戸 元之2富田 史章1 (1.東北大学大学院理学研究科、2.東北大学災害科学国際研究所)

キーワード:GPS-A 観測、海中音速水平勾配

GPS-音響測距結合方式で測位を行う海底地殻変動観測点は、通常3~6台の音響トランスポンダからなる正三角形または正方形の音響アレイで構成される。トランスポンダの相対位置は時間的に不変である、つまりアレイは剛体的に変位すると仮定して、アレイの変位を求める過程をアレイ解析と呼ぶ。このアレイ解析において最も重要なパラメタが海中音速である。通常、CTD等の海洋観測データに基づき、深さの関数としての音速構造(音速プロファイル)を定めたうえ、その基準プロファイルからの時間的または空間的なずれをアレイ変位と共に推定する方法がとられる。我々東北大のグループは、この海中音速構造のゆらぎを表すのに「鉛直規格化走時残差(Nadir Total Delay: NTD)」という量を定義し用いている。これは、GNSS測位における天頂遅延量(Zenith Total Delay)に相当する概念で、基準音速プロファイルから算出される理論走時と実際の観測走時との差を、音響パスの斜度に応じて鉛直方向に規格化したものである。水平成層構造を仮定するなら、NTDは音響パスの方位や射出角に依らず、時間のみの関数として扱うことができる。こうしてNTDの時間変動とアレイ変位を同時に解くという方法を採用してきた。

水平成層構造の仮定は一次近似としては妥当である。しかし当然のことながら実際の海洋には水平方向の不均質が存在し、アレイ解析に数センチ程度の誤差をもたらすことがある。本研究では、水平方向不均質の一次近似として音速勾配について考え、音速勾配の影響を考慮したアレイ解析の方法と、その実データへの適用結果を報告する。

観測で得た走時データからは音速勾配に関して2種類の情報が得られる。一つは、音速勾配とアレイ変位とでは走時に生じる変化の射出角依存性が異なることから、射出角の異なる複数のパスの走時を用いれば理論的には両者の分離が可能なことによる。もう一つは、移動観測(アレイ上を航行しながら測距を行う観測)中のNTDの空間分布である。我々はNTDの変動をすべて時間変動として扱ってきたが、例えば、アレイの北側で観測している時のNTDは南側で観測している時の値より系統的に大きいというような、空間依存性を窺わせる分布を示すことがしばしばある。この例で言えば、北側の海域のほうが南側よりも定常的に音速が小さい(遅い)可能性が考えられる。これらの2種類の情報はしかし、それぞれに弱点がある。前者については、理論的に分離可能と言っても、両者の影響は非常に似ているため、データ誤差やモデル誤差(実際の音速の水平不均質の勾配近似からのずれ)が結果に大きな影響を与えてしまう。後者については、船舶が移動しながら観測している間の変動であるから、基本的に時間変動と空間変動は区別できない。

数値実験や実データを用いた解析の結果、どちらか一方だけでなく、両方の情報を適度に組み合わせた方が妥当な結果が得られることが分かった。東北大学が準定期的に観測を行っている東北沖の観測点には、音響トランスポンダ6局からなるアレイと、3または4局のアレイとがある。また、水平位置の精度を高めるためアレイ中心における定点観測に重点を置いており、通常、10時間程度の中心定点観測と数時間程度の移動観測とをセットで行っている。6局アレイでは、正三角形の頂点および辺の中点にトランスポンダが配置されているため、中心定点観測中も2つの射出角を持つ音響パスが通っており、先に説明した2種類の前者にあたる情報量が多い。一方、3または4局アレイではそれぞれ正三角形または正方形の頂点にトランスポンダが配置されており、中心定点観測中の音響パスはほぼ同一の射出角しか持たないため、前者の情報量は少ない。2種類の情報量の重みは、ABICを用いて決めているが、このような事情を反映して、6局アレイではより前者の情報を汲んだ解が選択され、3または4局アレイではより後者に沿った解が選択される。

本解析を、2012年に東北沖に設置された20の観測点で、2016年までに行われた延べ約120回の観測データに適用した。1観測点でのアレイ水平変位の時系列をみると、水平成層構造を仮定した従来の結果にしばしば見られた不自然なジグサグの変動が、おおむね減じる方向に変化した。それに伴い、この間の平均変位速度も従来の結果から若干変化し、速度ベクトルが海域ごとにより揃う傾向が見られた。

本解析には課題も残る。音速の擾乱(基準プロファイルからのずれ)は主に表層で生じると考えられるが、音速勾配を考慮した本解析では、それがどの深度まで及んでいるかによって結果が有意に異なる。現段階では、様々な観点からこの深度を500 mとした結果を採用しているが、音速擾乱層深度の選択については今後も引き続き検討する。