[SCG67-P03] GPS-音響解析における勾配近似が成立しない海中音速空間不均質について
キーワード:GPS-音響測距結合方式、内部重力波、海中音速
はじめに
GPS-音響測距結合方式(以降、GPS-A)はGPS測位と音響測距を組み合わせることで海底での変位を検出できる測位手法の1つである。GPS-Aの測位精度は海中音速の不確定性に大きく依存する。現在の解析では水平成層を仮定した平均音速場の時間変化は推定可能であるが、モデル化されない海中音速の空間不均質がアレイ推定位置の見かけの揺らぎとして現れる(e.g., Spiess et al., 1998)。このため十分な精度を得るために現状では半日以上の長時間観測による平均処理が必要である。
Kido (2007) は、海底局アレイのサイズに対して十分長い水平空間波長を持つ音速不均質であれば、等価な水平勾配で近似可能で、5局以上の海底局アレイの直上の適切な場所で観測することで音響測距1ショット毎にアレイの水平変位と平均海中音速変化に加えて、空間2成分の音速勾配を推定できることを理論的に示した。しかし6海底局の観測点である東北沖の観測点G19にて2014年に取得した実データに適用したところ、音速勾配を解くことで、かえってアレイ位置の見かけの揺らぎが増幅する結果が得られ、波長の短い空間不均質の存在が示唆された(松井・他、 2017)。そこで本研究では、勾配近似が成り立たない音速空間不均質が存在する場合の影響を理解するため、以下の調査を行なった。
数値シミュレーション(内部重力波モデル)
比較的短時間(~1h)で変化する空間不均質の要因として内部重力波を想定し、以下の条件でGPS-A測位解析の数値シミュレーションを行った。XBTの実測などで頻繁に見られる、水深800mを振動中心とした振幅20mの内部重力波により基準音速プロファイルを振動させることで音速場の空間不均質をモデル化した。内部重力波の空間波長を変化させながら、Kido (2007)の観測方程式で解析したところ、波長5000m程度であれば空間不均質が勾配として分離可能であることが分かった。一方、波長1500m程度では、実データに適用した際と同様に、アレイ位置の見かけ揺らぎが拡大する結果となった。このことから、実海域では想定されていたよりも短波長の内部重力波が生じている可能性が示唆された。
実データへの適用
上記の結果を受けて空間不均質を勾配ではなく、有限の波長をもつ内部重力波として表現し、アレイ位置を推定する解析手法を考案した。未知数の増加を最小限におさえるため、内部重力波を周期、位相、振幅、振動中心の水深、振動が及ぶ水深範囲、波長、進行方向の7つのパラメータで表した。しかし上記G19サイトの実データの走時残差を最小にする7つのパラメータをグリッドサーチで探索したが、走時残差を適切に説明できるモデルは得られなかった。
今後の課題
現段階では実データへの適用は一観測例に留まるために、今後より多くの実データを用いて上記モデル化の妥当性を検討する予定である。また、現在は一つの内部重力波のみを考慮しているが、異なる深さにおける複数の内部重力波を考慮した解析も行いより複雑な空間不均質のモデル化を試みる予定である。
GPS-音響測距結合方式(以降、GPS-A)はGPS測位と音響測距を組み合わせることで海底での変位を検出できる測位手法の1つである。GPS-Aの測位精度は海中音速の不確定性に大きく依存する。現在の解析では水平成層を仮定した平均音速場の時間変化は推定可能であるが、モデル化されない海中音速の空間不均質がアレイ推定位置の見かけの揺らぎとして現れる(e.g., Spiess et al., 1998)。このため十分な精度を得るために現状では半日以上の長時間観測による平均処理が必要である。
Kido (2007) は、海底局アレイのサイズに対して十分長い水平空間波長を持つ音速不均質であれば、等価な水平勾配で近似可能で、5局以上の海底局アレイの直上の適切な場所で観測することで音響測距1ショット毎にアレイの水平変位と平均海中音速変化に加えて、空間2成分の音速勾配を推定できることを理論的に示した。しかし6海底局の観測点である東北沖の観測点G19にて2014年に取得した実データに適用したところ、音速勾配を解くことで、かえってアレイ位置の見かけの揺らぎが増幅する結果が得られ、波長の短い空間不均質の存在が示唆された(松井・他、 2017)。そこで本研究では、勾配近似が成り立たない音速空間不均質が存在する場合の影響を理解するため、以下の調査を行なった。
数値シミュレーション(内部重力波モデル)
比較的短時間(~1h)で変化する空間不均質の要因として内部重力波を想定し、以下の条件でGPS-A測位解析の数値シミュレーションを行った。XBTの実測などで頻繁に見られる、水深800mを振動中心とした振幅20mの内部重力波により基準音速プロファイルを振動させることで音速場の空間不均質をモデル化した。内部重力波の空間波長を変化させながら、Kido (2007)の観測方程式で解析したところ、波長5000m程度であれば空間不均質が勾配として分離可能であることが分かった。一方、波長1500m程度では、実データに適用した際と同様に、アレイ位置の見かけ揺らぎが拡大する結果となった。このことから、実海域では想定されていたよりも短波長の内部重力波が生じている可能性が示唆された。
実データへの適用
上記の結果を受けて空間不均質を勾配ではなく、有限の波長をもつ内部重力波として表現し、アレイ位置を推定する解析手法を考案した。未知数の増加を最小限におさえるため、内部重力波を周期、位相、振幅、振動中心の水深、振動が及ぶ水深範囲、波長、進行方向の7つのパラメータで表した。しかし上記G19サイトの実データの走時残差を最小にする7つのパラメータをグリッドサーチで探索したが、走時残差を適切に説明できるモデルは得られなかった。
今後の課題
現段階では実データへの適用は一観測例に留まるために、今後より多くの実データを用いて上記モデル化の妥当性を検討する予定である。また、現在は一つの内部重力波のみを考慮しているが、異なる深さにおける複数の内部重力波を考慮した解析も行いより複雑な空間不均質のモデル化を試みる予定である。