日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL30] 地球年代学・同位体地球科学

2018年5月23日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)

[SGL30-P06] 低~中速摩擦実験で認められた,石英の光刺激ルミネッセンス(OSL)信号の増大

*大橋 聖和1赤瀬川 幸治2長谷部 徳子3三浦 知督4 (1.山口大学大学院創成科学研究科、2.大和探査技術株式会社、3.金沢大学環日本海域環境研究センター、4.金沢大学自然科学研究科)

キーワード:光励起蛍光、断層年代測定、粉砕、比表面積、トライボロジー

近年,堆積物の年代決定に広く用いられてきたルミネッセンス年代測定法を,断層物質を用いた地震イベントの直接年代測定に適用する試みが進められている(例えば雁澤ほか, 2013).これは,地震性断層運動に伴う物理的な刺激によって,鉱物中に蓄えられた放射線損傷(蓄積電子)がリセットされるという考えに基づいている.地震時の断層内部では熱,破砕・摩擦などの物理的な刺激が生じるが,前者については摩擦発熱が約300 ℃を超えると光刺激ルミネッセンス(OSL)信号がリセットされることがわかってきている(Oohashi et al., 2017).一方で,破砕や摩擦でも蓄積電子の減少が起こるのならば,ゆっくりとした断層運動でも年代値の若返りが起こることになり,リセットイベントを単純に地震性断層運動に帰すことができない.本研究では,低~中速剪断に伴うOSL信号の変化を捉えることを目的とし,石英粉末を用いた摩擦実験を行った.
 実験には回転剪断式摩擦試験機を用い,粒径150 μm以下に調整した重量1 gの石英粉末に対し,(1) 垂直応力と変位速度を1 MPa,200 μm/sに固定し,変位量を変化させた実験群と,(2) 垂直応力と変位量を1 MPa,10 mに固定し,すべり速度を変化させた実験群を行った.実験後の試料は,粉砕の影響が無視できる75~150 μm(以下粗粒)と75 μm以下(以下細粒)の粒径画分にふるい分けを行い,それぞれOSL測定を行った.
 測定の結果,変位量を変化させた実験群では,粗粒,細粒ともに変位量の増大に伴う明瞭な信号変化は認められなかった.一方ですべり速度を変化させた実験群では,特に細粒試料において速度の増加に伴う信号強度(Lx/TxおよびFast~Medium成分)の増大が認められた.実験後の細粒試料の比表面積測定を行ったところ,信号変化のなかった実験群からも表面積の増大(細粒化)が認められており,粉砕そのものが信号強度を増加させているわけではない.中山(2006)は,摩擦接触点から電子等が放出されるトライボエミッションを報告しており,その放出量はすべり速度とともに増加する.これらの結果を併せると,細粒試料で認められたすべり速度の増加に伴う信号強度の増大は,粉砕によって生じた新生界面にトライボエミッションによって放出された電子が不安定な形でトラップされたものと解釈できる.

[引用文献]
鴈澤ほか (2013), 光ルミネッセンスと熱ルミネッセンスを利用した活断層破砕帯の年代測定法. 地質雑, 119, 11, 714-726.
Oohashi K., et al., (2017), Experimental investigations of OSL signal changes of quartz gouge during low- to high-velocity friction. American Geophysical Union 2017 Fall Meeting, T14D-08.
山中 (2006) , 摩擦空間のマイクロプラズマ. 真空, 49, 10, 618-623.

[謝辞]
本研究は,平成27~29年度原子力施設等防災対策等委託費(野島断層における深部ボーリング調査)事業の支援を受けています.記して感謝申し上げます.